(2)自分は思っているほど有益な情報を持っていない

強いネゴシエーターが行う分析は、相対的に弱い相手が行う分析ほど有益でも正確でもない公算が高い。

コーネル大学のエリザベス・マニックスとスタンフォード大学のマーガレット・ニールは、強いネゴシエーターは弱い相手の利益をなかなか正確に判断できないという研究結果を発表している。

弱いネゴシエーターのほうが相手の利益をはるかに正確に判断する傾向がある。力を握っている人々が単純な情報処理を行う傾向があるのに対し、弱い側はより周到かつ複雑な情報処理を行うことが多い。

もちろん、交渉で強いプレーヤーと弱いプレーヤーが同一の情報を受け取ることはありえない。デービッド・メシックと私は、力は矢を防ぐ盾というよりも、むしろ矢を引き寄せるダーツ盤に近いことに気づいた。弱いネゴシエーターは認識上の力の不均衡を「正す」ために、情報を歪曲して伝えるなど、自分が必要だと思うあらゆる手段を用いる可能性が高い。われわれはある実験で、弱いネゴシエーターが強い相手に情報を伝えるときのほうが、その逆の場合より真実を曲げる可能性が高いことを発見した。

(3)あなたは無敵ではない

昇給交渉の話に戻ろう。たとえば、あなたと顧客のやり取りについて、明らかに真実ではない批判的な話を同僚があなたの上司に伝えたことがわかったとしよう。あなたは彼らの裏切りに驚き、ショックを受ける。

嫉みからであれ、不公平感からであれ、相対的に弱い側は強い相手に失敗してもらうために必要なことは何だってやるものだ。残念ながら、強い側は往々にして相手の悪意に気づかない。事実、われわれの研究では、人は強ければ強いほど、他人についても信頼できると思ってしまうことが明らかになっている。この思い込みのために、強いネゴシエーターは裏切りや他の形での力の奪取など、別の筋書きが見えなくなるのである。