子供のやる気は「目の良さ」による
スモールステップのしくみに関連して、独自の意欲喚起教育を導入している塾も多い。
コーチが短期目標を設定し、クリアさせ、それをくり返すことで、ゴールの近くまで導き、最後は子供自らがゴールを見出し、ラストスパートする。それが中学受験だと前述した。
しかし子供の「視力」には差がある。「視力」がいい子は早めにゴールを「視野」にとらえることができるので早い時点からラストスパートにかかることができる。「視力」の悪い子だと、なかなかゴールに気づくことができないかもしれない。この場合の「視力」とは、「目的意識」のことである。
意欲喚起教育とは、「視力」の悪い子には、少し遠くの風景を眺めさせ、少しでも「視力」を良くするようなもの。そうして自分のゴールがどこにあるのか、少しでも早く気づいてもらうのだ。
テストの点数をとらせるだけではなく、「目的意識」を盛り上げ、やる気を引き出すのも、コーチの重要な役割というわけだ。
塾の先生は他人だからこそ、親がわが子には言えないような臭いセリフを言うことができるし、親が見逃しがちな子供の成長に気づいてもあげられる。
多くの塾で導入している「自ら学ぶ子」を育てるための意欲喚起系の取り組みは、家庭ではなかなかできない。親子の間ではどうしてもお互いに照れや遠慮が入ってしまうからだ。
塾はただ子供に勉強をさせるだけの場所ではない。親にはできない、学校にもできない教育を、与えてくれるところなのだ。
拙著『親が後悔しない、子供に失敗させない 中学受験塾の選び方』では、印象で語られてしまうことが多い大手塾に対し、あえてスモールステップに焦点を当てて違いを描写している。
特に5年生の算数の学習サイクルに注目している。塾としては、6年生の志望校別講座や週末特訓による追い上げのしくみや、4年生のときの丁寧な指導をアピールすることが多いが、実は5年生こそ、中学入試で実用性の高い知識・技能をできるだけ効率良くたくさん集める時期であり、5年生で積み上げた力が、入試突破力の核になるといっても過言ではないからだ。
特に算数。4年生のときのような楽しさや6年生のときのような切羽詰まったムードはないが、その分、地道に確実に力を付けていかなければいけない。取り扱う問題の難易度がぐんぐん上がっていく中、毎日のルーティンに耐えられるかが最大の課題。だからこそ、スモールステップを意識して、目の前の目標をクリアしていくことが大切なのだ。