全員を直接雇用に置き換えられるのか
期間制限を個人単位で課すことには一定の合理性がある。行動経済学の研究では、人間には、目先の利益はすぐに受け取ろうとするが、嫌なことはできるだけ後回しにするという「先送り行動」の傾向があることが知られている。このため個人単位の期間制限により、直接雇用への切り替えが早くなる可能性がある。
そして3年を超えて働く派遣労働者に対しては、派遣元企業に雇用安定のための施策をとることが義務付けられた。具体的には、(1)派遣先への直接雇用の依頼、(2)新たな派遣先の提供、(3)派遣元での無期雇用、(4)その他の必要な措置、のいずれかをとることが義務化された。このことも安定した雇用を望む労働者にとっては、好ましいことだといえる。
これに対して、今回の改正に批判的な立場からは、これまでならば3年を超えて働くことができた26業務の労働者についても、期間制限が適用される点が問題視されている。派遣労働者の中には、直接雇用を望まないケースも多くあるためだ。
派遣について「かわいそうな働き方」と決めつけるのでは議論は進まない。本意型にはよりよい待遇を、また不本意型にはより安定した雇用形態を実現できるように支援することが望ましい。その際にはすべてを直接雇用に置き換えることはできないこと、またそれが望ましいとも限らないことに注意すべきである。本意型の派遣労働者のように、多様な働き方を求める声もあるからだ。そして「正規なら幸せ」とはいえない点も理解すべきだ。長時間労働での健康被害など正規にも問題はある。
人口減少社会を迎えた日本においては、これから働き方を変えていく必要性が高まっている。労働者にとって重要な選択肢となる派遣をうまく活用するためのルール作りについて、今後もさらに建設的な議論を行うことが求められる。
※1:厚生労働省「平成24年派遣労働者実態調査」より。派遣労働者の今後の働き方に対する希望は、「派遣労働者として働きたい」43.1%、「派遣社員ではなく正社員として働きたい」43.2%、「派遣社員ではなくパートなどの正社員以外の就業形態で働きたい」4.2%となっている。
※2:そのほかの例外は以下の通り。・終期が明確な有期プロジェクト業務。・日数限定業務(1カ月の勤務日数が通常の労働者の半分以下かつ10日以下であるもの)。・産前産後休業、育児休業、介護休業等を取得する労働者の業務に派遣労働者を派遣する場合