結局、数値データはそれ単独では意味を持たないのだ。別のデータと比較することで初めて意味を持ち、生きたものとなることを覚えておこう。

ソフトバンク流に言えば、ビジュアル情報についても「ワンシート・ワンビジュアル」だ。1枚の資料に入れるグラフは原則1種類。

許されるのは、せいぜいグラフ2種類の組み合わせまでだろう。それ以上入れると、一見しただけではわかりにくくなり、ビジュアル情報が生きてこない。

悪い例が【BEFORE】3Pだ。グラフが3つもあり、しかもお互いの関係が不明確で、何を伝えたいのかがわからない。こうしたケースでは数値データを整理して、シンプルなグラフに作り直す。

【BEFORE】3Pでは、母集団となるベンチャー企業を成長率によって棒グラフで分類しているが、【AFTER】では、母集団を成長率100%以上の否定のしようもない「本当の成長企業」に限定し、一まとめにした。その結果、データが1種類の円グラフに収まり、会議室の保有状況や保有予定の割合を内訳で示せるようになった。

ワンシートをワンメッセージ、ワンビジュアルでまとめるのは、たやすいことではない。そのシートで一番伝えたいこと――「キーメッセージ」がわかっていないと、まとめることができなくなる。

だから提案書作りでは、まずキーメッセージを探すことから始まる。次に、それを理解してもらうには、どんな表現にすればよいのか、シンプルな形になるまでロジックを煮詰めていく。そして、ロジックを証明する数字によって、キーメッセージに説得力を持たせるようにする。

後述【BEFORE】3Pのキーメッセージは「成長企業ほど貸会議室を利用している」ということ。成長企業の75%以上が会議室を持たず、持つ予定もないという実態データが、そこで生きてくる。同じシートで実態データをグラフ化し、顧客にたたみかける。

ワンシートに盛り込める情報は限られており、枝葉の情報は切り捨てよう。自明の内容は、目障りなだけなので省くこと。そうした内容は顧客に答えてもらうようにすれば、むしろ実際のプレゼンの場での話が弾むはずである。

最近、パワポを自在に使いこなすビジネスマンが増える一方で、レイアウトやデザインは見事なのに中身がない、わかりにくいプレゼン資料が氾濫し始めている。その要因は、「自分の主張を簡潔・的確に提示する」という、プレゼンの本質的なスキルが身についていないことにある。

そうしたスキルはパソコン教室では決して学べない。パワポの腕を上げることも大いに結構だが、日々のビジネスの現場で、資料作りを含めたプレゼンのスキルを鍛え上げることを肝に銘じたい。