実際には統制経済の部分が色濃く残っていて、私は現地で会社経営しているからよくわかるのだが、毎年春になると「給料を15%上げろ」と市が言ってくる。「15%も上げたら会社がもたない」と抗議しても、「命令だ」と問答無用。中国は許認可社会だから従わなければライセンスを取り上げられるし、従業員の権利意識もこの10年で飛躍的に高まって何かあるとすぐに弁護士を連れてくる。簡単に辞めさせられないのだ。おかげで経営を始めてから10年以上経つが、月2万円だった従業員の給料は10万円になった。日本で商売したほうが安いくらいで、広東省の繊維業はこの1年で4000社が会社をたたんで、ベトナムやカンボジア、ミャンマーやエチオピアなどに逃げた。

「先に豊かになれるものから豊かになりなさい」とはトウ小平の言葉だが、政府は社会主義市場経済で豊かになることを国民に約束した。目に見えて一番わかりやすいのは毎年、賃金が上がること。だから賃金統制をしてきたのだ。賃金が上がれば物価も上がるのが市場経済だが、中国では物価もコントロールされている。賃金コストが毎年上がるのに、価格に転嫁できないのだから、経営側は苦しい。

土地から株式市場へ移った「官製バブル」

政府が唯一コントロールしてこなかったのが、不動産の価格である。中国は全土が共産党政府の持ち物。農民は政府から土地を借りていることになっているから、取り上げるのは容易。市政府は二束三文のお金と代替地を与えて農民から土地を収奪し、ディベロッパーに開発させる。商業地としてリースするときには土地の値段が50倍にも100倍にもなって、その差額が市の財政に転がり込んでくる。これが中国の急成長と土地バブルを演出した土地マジックの基本的な仕組みだ。市政府の歳入の平均3分の1が土地の転売益で、歳入の半分を占める例も珍しくない。税収に頼らなくても都市開発ができるし、道路や港湾などのインフラも整備できるから市民としては文句ない。開発業者は儲かるし、口利きした政治家や許認可権限を持つ上級役人、開発に関与した末端の役人に至るまで業者からキックバックがあるから、エブリワンハッピーなのだ。

だから政府は不動産の高騰を野放しにしてきた。そのほうが共産党政権としてはパイが広がるからである。この10年でつくられた中国の高速鉄道の総距離は2万5000キロ。鹿児島から青森までの新幹線の全線距離が約2200キロだから、凄まじい開発スピードだ。

しかし、さすがに不動産の値段が上がりすぎると、買える人は少なくなってくる。新築マンションの空室が増えて、方々でゴーストタウンが目立つようになってきた。売れなくなれば不動産価格は下落する。危機に敏感な銀行は不動産融資を手控えるようになり、各市町村や個人は高利の中国版ノンバンクから借りるようになった。結果、雪だるま式に借金が増えて、せっかく買った不動産を手放さなければならない状況だ。

すると、さすが計画経済、政府はバブルを株式市場に誘導した。株式や理財商品(高利回りの金融商品)を買う人に積極的に貸すように金融機関に指示したのだ。それが2年前で、1年後には上海市場の株価は2.5倍に膨れ上がった。上場企業の業績はむしろ悪化しているにもかかわらず、だ。そして今年6月のある日、株価が3割下落して、バブル終焉の警報が鳴った。