海外で稼ぐ割合が増えた日本企業は、目まぐるしく変化する世界情勢の影響をまともに受けるようになっている。いっときの成功に酔いしれている暇はない。2015年、新しくトップに就任した男たちはどんな戦いを挑むのか。
「バリュークリエイト宣言」の決断が自信
確かなグローバルカンパニーこそが、味の素のめざす企業像だ。そのためには、安定的な利益成長を図りながら、2020年には、食品会社の世界トップ10を狙うという。新しい牽引役として伊藤雅俊会長が指名したのが西井孝明社長である。持ち前のバランス感覚と決断力で、同社にとっても重要な転換点となる時代の舵取りをどうするのか。
――ブラジル現地法人社長から本社トップへの就任だが。
【西井】13年5月から2年間、ラテン文化のなかで仕事をしてきた。そこで感じたのは、現地スタッフの底抜けの明るさ。と同時に、自分のやりがいを見出したときのコミットメントの強さだ。
そんな彼らに、リーダーの条件を問うと“シンパチコ”という言葉が返ってくる。ポルトガル語で、親しみやすいという意味だ。人気のあるリーダーは、一段高い台の上から旗を振るのではなく、下に降りて、社員の手を握り、肩を叩き合う。私もそうなろうと心がけてきた。
――これまでで、最も印象に残っている仕事は?
【西井】04~09年まで子会社の味の素冷凍食品に取締役家庭用事業部長として出向した。その頃、市場規模は5000億円といわれ、当社では、家庭用が売り上げの7割を占めていた。だが、小売りの現場では過当競争が進み、定価の4割、5割引きは当たり前。マーケットは伸びているのに儲からないという状況に陥っていた。
そこで、メーカーとして取り組んだのが、最終消費者に認めてもらえる品質と価格の追求にほかならない。原材料を抜本的に見直し、思い切った品質改良を行い、新しい製造技術を導入。09年2月には「バリュークリエイト宣言」を発表することができ、20%のプライスアップにつなげている。