たとえば損害保険会社は、自身の二酸化炭素排出量は少ないかもしれないが、海面上昇によって危険にさらされている海岸地帯の不動産に対する保険や再保険を引き受けている場合には、二酸化炭素エクスポージャーが高いかもしれない。同様に、石油に関連した二酸化炭素の排出は、ほとんどが石油会社によるものではなく、その顧客によるものだ。排出制限が課せられたら、これらの企業の製品に対する需要は抑制されるだろう。

もう一つの例として、ネスレのような食品会社に対する外からの多面的な影響を考えてみよう。気候変動は、同社が農産物を買い付けているさまざまな地域の相対的な生産性を変化させ、同社の原材料費に影響を及ぼすだろう。また、気候変動に対処するための政府規制は、小売店でアイスクリームを保冷するために使用するエネルギーのコストを上昇させ、それが需要の状況に影響を及ぼすだろう。こうした影響は、ほかにも考えられる。

外から内への影響を競争相手が簡単には太刀打ちできないかたちで制御することができれば、企業はそうした影響に戦略的に対処することができる。ネスレは川上統合を控えて原材料の生産を外部委託しており、そのおかげで同社のサプライチェーンには柔軟性がある。この柔軟性は、各地の生産性が変化し、しかもネスレの競争相手は硬直的なサプライチェーン構造に縛られて原材料の入手先を簡単には変えられないという事態になった場合には、ネスレは貴重な戦略的優位を得ることができる。同様に、旱魃に強い品種や昆虫媒介病のワクチンや治療法は、(それを生み出した企業がその知的財産を守れる間は)ますます価値のあるものになるだろう。

IT、グローバル化に匹敵する影響

時として、大きな新しい力がビジネスの世界を劇的に変えることがある。グローバリゼーションやIT革命は、過去20~30年の間にこうした劇的な変化をもたらしてきたが、気候変動は、その複雑さと及ぼす影響の点で、この2つの力に匹敵するかもしれない。

多くの企業が地球温暖化を依然として企業の社会的責任の問題とみなしているが、ビジネスリーダーは、ほかの戦略的脅威や戦略的機会に対する場合と同様、現実的な姿勢でそれに対処する必要があるのである。

(文=マイケル・E・ポーター&フォレスト・L・ラインハルト 翻訳=ディプロマット)