苦しみの中での快投

時事通信によると、ノーヒット・ノーランの快挙を達成したあとの記者会見で、岩隈投手は被災地東北のファンに対し、こう語っている。「一歩一歩前進してがんばっている皆さんに、また一つ勇気を与えることができたのかなと思う」と。離れていても、彼は被災地を忘れていないのだ。

『スポーツのチカラ』とは「生きる喜び」「生きる励み」であると思っている。フィギュアスケートの羽生結弦選手と同様、岩隈投手は被災地の人々に寄り沿うことで、逆に生きるパワーをもらっているのだろう。

岩隈投手を取材したのは、2011年、震災前の楽天の久米島キャンプだった。田中将大投手と並んでのピッチング練習は迫力満点だった。岩隈投手の物静かな振る舞いと意志の強そうな目が印象に残っている。

2012年に米大リーグ移籍後は、派手ではなくとも、それなりの勝ち星を稼いでいた。だが今季は前半、ケガの影響もあって苦しみ、一時はトレード候補ともいわれていた。その苦境の34歳の快投である。

技術、体力はともかく、ノーヒット・ノーランを生んだ精神面の強さは、被災地への思いと無関係であるまい。岩隈投手本人のコメント通り、彼の116球は被災地の人々に勇気を与えたに違いない。

松瀬 学(まつせ・まなぶ)●ノンフィクションライター。1960年、長崎県生まれ。早稲田大学ではラグビー部に所属。83年、同大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク勤務。02年に同社退社後、ノンフィクション作家に。日本文藝家協会会員。著書に『汚れた金メダル』(文藝春秋)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)、『一流コーチのコトバ』(プレジデント社)など多数。2015年4月より、早稲田大学大学院修士課程に在学中。
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