けれども近年、そのアイデアも間違っていたとわかりました。残念ながらいま、明らかになっのは、がんの本質は、単純に説明のつくものではない、ということ。

一人一人のがんは、すべて異なっている。そしてその一人一人のがんさえも、日々、変化しつづけいる。とてつもなく複雑で魑魅魍魎としたもの、それががんの正体なのだと。

シアトルの紀伊国屋書店でも平積みに

そのうえで、今、薬の開発の現場では、遺伝子変異がおきる「道すじ(pathway)」をブロックする、という方法で研究が行われています。「道すじ」とは、細胞のなかの組立ラインのようなもの。細胞が生きて活動するためにおきる化学反応の工程のことです。細胞中の遺伝子はみんな、この組立ラインのそばに位置して生息しています。

だから、この組立ラインの一定の場所をブロックしてしまえば、がんの進行は止まる、というわけです。

けれども問題は、どんな薬も、1つのラインしかブロックすることができないこと。だからどうしても、薬をいくつも、いくつも組み合わせないと、がんは叩けない。そしてこの組立ラインは、1人のがん患者に何百どころか、何千種類もあるだろうと推測されています。

もちろん、1人の人が、何千種類もの薬を飲めるわけはない。おまけに、がんの新薬は目が飛び出るほど、高い。アメリカでは抗ガン剤の新薬には、1人年間1200万円程度の価格がつけられるのが相場だとか。毎月100万。保険が7割を負担してくれるとしても、なんと30万円。そんな高額なものを、組み合わせていくつも飲むとなると。一般人にとっては非現実的な話です。