版図を広げる「見えない経済大陸」
企業や国家の戦略を考える仕事をしてきたから、新しい経済現象や経営環境の変化の先を感知することを常に心掛けてきたし、遍(あまね)くそれを世の中に提起してきた。『企業参謀(英語版『The Mind of Strategist』「戦略家の心」)』(1975年)ではcustomer、competitor、companyの3つのCを使った戦略立案のフレームワークを解説。『ボーダレス・ワールド』(89年)では、ヒト、モノ、カネが楽々と国境を飛び越える経済のグローバル化、世界の均質化という時代の大きな変化を示した。「グローバリゼーション」という言葉を初めて使ったのは恐らく本書だろう。情報が国境を越えるためにソビエト連邦の崩壊も不可避、と予言した。
次いで21世紀の経済社会の新しいフレームワークを提起したのが『The Invisible Continent(見えない大陸)』(2001年 邦題『新・資本論』)。21世紀の経済はケインズ経済的な実体経済に加えて、ボーダーレス経済、サイバー経済、マルチプル(倍率)経済という4つの経済空間で構成されている。それらが相互に作用し、渾然一体となった「見えない(経済)大陸」では、従来の経済原則や経営戦略がまったく通用しない事象が次々と起こり、4つの経済空間を束ねて発想できる者のみが勝ち残る―と私は論じた。出版当時としては飛躍した内容だったが、リーマン・ショックやヨーロッパ経済危機など、近年になって騒がれるようになった経済現象のほとんどが本書で説明されている。たとえば「富はプラットホームから生まれる」というチャプターがあるが、アメリカのビジネススクールなどでも研究が進んで、最近になってようやく「プラットホーム戦略」という言葉も定着してきた。『The Invisible Continent』から14年、「見えない大陸」はオールドエコノミーを凄まじい勢いで侵食して、その存在を感知できる人も徐々に増えてきた。一方で「見えない大陸」が版図を広げる中で、『The Invisible Continent』では予見できなかった新しい経済現象も起きている。
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