行き詰まる雇用政策の打開策として、フレキシキュリティが注目されている。これは柔軟な労働市場(flexibility)と高い失業保障(security)を両立させた政策のことで、デンマークやオランダではこれにより失業率の低下と経済成長を実現したとされる。

柔軟な労働市場とは、すなわち解雇しやすい労働市場である。立教大学の菅沼隆教授によると、デンマークでは「自発的離職を含む年間転職率は30%前後と高い。つまり全労働者の4分の1から3分の1が毎年転職している」。ただし「土壌が異なるので、日本で解雇の自由を認めることは弊害が大きい」とも。

デンマークの転職率の高さの背景には、労使が参加し、莫大な手間と公費をかけた再就職支援政策が存在する。職業訓練プログラムは中央、業界、地域のいずれのレベルでも労使共同で効果的なものが開発され、企業は実習訓練の場を提供する。しかも職業訓練は失業中だけでなく在職中でも受講でき、受講中の賃金減額分は国と経営者団体が拠出する基金から給付されるのだ。

高い失業保障とともにこうした政策をとれば、「大きな福祉国家」化は避けられない。それにもかかわらずデンマークで効率的な国家運営がなされているのは「保育・介護など高度な社会サービスの発達で労働力率が高いうえ、公費による人的投資の額が大きく、生産性の向上と平等な機会の提供に成功している」(菅沼教授)からである。

このような背景を抜きにしてフレキシキュリティ政策を推し進めれば、単に失業者を増やす結果になりかねない。