システム代などで資金繰りに追われ、そのシステムも予定通りにはできず、不完全な状態で営業開始となる。ただ、望む人材は思いのほか集まった。人脈をたどり、大学の同窓会のメーリングリストを利用し、呼びかけた。目標を共有し、全員が約束したことに一途に取り組む。互いに敬意を持てる面々と仕事をすれば、自然に「いいチームでありたい」という一つの思いになっていく。流通革命を起こすDNAとは別に、もう一つのDNAが埋め込まれていく。
多忙のなか、サイトの画面の色使い、ボタンの位置やユーザーへ対応など、好みに合わせた指示を出し続けた。社名やサービス名を付けるときも、最後は自分が決めた。ただ、自分よりもいいアイデアが出たときは、譲る。そういう意味では、人の意見をよく聞く。「自分と違う意見を聞きたい」という姿勢は、自然に「自己検証」をしているのだろう。相手を論破するよりも、ひたすら「いいものをつくりたい」が優先。きのう自分が言ったことを、あっさり変えることもいとわない。
株式を公開した2005年2月ごろ、アシスタントを務める女性と、取材に備えて百貨店へブラウスを買いにいく。気に入っているジャケットを着て、合う品を探した。店員が、あちこちの売り場から、十数点も集めてくれた。でも、2人とも「こんなのは、合うはずがない。とんちんかんだ」と思い、ついには怒りが口を出る。
店員は反論もせずに、謝った。2時間近くがたっていて、「もう、帰ろう」と言ったら、アシスタントが「せっかく選んでくれたのだから、一着くらい着てみませんか」と言う。渋々着てみると、想像以上にいい。怒りは消え、店員に「見直しました。あなたはプロだ」と言い、続々と試着する。結局、大半を買った。こういうときも、豹変をいとわない。
「大人虎変」(大人(たいじん)は虎変(こへん)す)――徳の高い立派な人物は、日々、虎の皮の美しい模様のように、善い方向へと変化していくとの意味で、中国五経の一つ『易経』にある言葉だ。常に優れた意見を受け入れて、進歩を重ねていくことの大切さを説いており、一点に凝り固まらず、しなやかに最善を目指す南場流と重なる。