一時の不祥事を乗り越えビジネスホテル最大手が業績を伸ばしている。原動力は、女性支配人たちの工夫と頑張りだ。「女たちの会社」の知られざる内幕を紹介する。

支配人に一切の運営を任せる会社

「行ってらっしゃいませ!」

フロントスタッフのよく通る声が、開ききった自動ドアからホテル前の国際通りのほうへ抜けていく。

4月の平日、午前11時を回ったころ。それまでロビーで楽しげにおしゃべりをしていた外国人観光客の一団が、一斉に腰を上げて当日の観光へ出かけていった。その姿をドアの横に立って見送るのが、東横イン「上野田原町駅」支配人、佐藤玲子の日課である。

東横インは宿泊特化型ホテル、いわゆるビジネスホテルの最大手(客室数ベース)。シングルで税別7800円を超えないリーズナブルな価格で、「安心・快適・清潔」な部屋を提供する。主な顧客は、国内企業の出張客だ。

ところが、このところの外国人観光客の急増で、東横インをはじめとするビジネスホテルは格安の観光ホテルとしても利用されるようになった。観光地・浅草に近い上野田原町駅は、国内のビジネス客に加え外国からの観光客で連日大盛況だ。

浅草にほど近い東横イン上野田原町駅のロビー。このところ、アジアからの観光客でいっぱいだ。

「やはり最近は外国からのお客様が多いのですが、2月に入ってからは特に目立つようになりました。その分、申し訳ないのですが、出張でいらっしゃる常連のお客様から、『なかなか部屋をとれない』という苦情をいただくこともあります。こうしたお客様の客室確保が課題なんです」

直前までテーブルの拭き掃除をしていた佐藤は、取材の席につくなり、はつらつとした口調でこう話した。

客室数138は東横インでは小型店の範疇だが、フロントや清掃スタッフといった従業員の採用から消防署、保健所など役所との折衝、集客方法の考案まで運営の一切を任されるのが同社の支配人。一般的なチェーンストアの店長よりも責任ははるかに重大だ。佐藤にしても、業界で長く経験を積んだベテランのような落ち着きがある。

しかし実をいうと、佐藤は1年前の2月に採用されたばかり。それまでにホテル業界の経験は一切ない。中堅の総合商社を出産退職したのちに、商社時代の同僚が立ち上げた小さな貿易会社に創業スタッフとして参加。チリやスペインから食肉を輸入する事業に10年ほど携わった。「ちょうど40代にさしかかり、10年後の自分のキャリアを考えたとき、新しい世界で仕事をしてみたいと考えたんです。転職サービス会社に登録して、半年間で50社くらいの面接を受けました。そのうちの一社が東横インでした」(佐藤)