じつは一時期、スタバをまねしてお客様に「こんにちは」と声をかける飲食店が増えました。しかし、その多くはうまくいっていません。原因は、おそらく「こんにちは」という挨拶の形だけを取り入れようとしたからでしょう。大切なのは、形よりもミッション。むしろ形は現場に任せたほうが、気持ちのいい挨拶につながるのです。
具体的なやり方は現場に任せるという姿勢は、普段のマネジメントにおいても重要です。たとえば部下に資料の作成を頼むとき、優秀な上司は「役員会で使いたい」「私の備忘録として」というように、資料作成の目的を一緒に話します。目的が共有できていれば、あとは部下が自分なりに工夫して資料をつくってくれるからです。一方、ダメな上司は「このデータをグラフで入れて」と細かく指示を出す。このような指示は創造性を発揮する余地がないため、部下は前向きに取り組みにくいでしょう。
相手の立場に立ち言葉を使うことも大事です。私が初めて社長を務めたのは、ゲーム会社のアトラスでした。社長就任挨拶では、自分の方針をしっかり伝えようと、MBAで学んだキャッシュフロー経営の大切さなどを力説しました。ところが社員は無反応で、ポカンとしています。考えてみると、この反応はあたりまえ。現場の社員にキャッシュフローという言葉が身近に感じられるわけがないのです。
その反省から、2社目のイオンフォレストの社長に就任したときには、独りよがりにならないように言葉を選びました。すると今度は、涙を流して聞いてくれる社員までいました。どんなに大事なことも、相手に伝わる表現でなければ意味がありません。
話し方をいろいろ工夫しても部下がやる気を見せない場合は、そもそも自分の責任感に問題があると疑ってください。社長がマネジャーに指示を出して、マネジャーが現場の担当者にそれを伝えたとします。会議のとき、社長と同じ側に座って担当者から報告を求めるのは、上下の間をつなぐだけの“電話線上司”。部下は「無責任な上司だ」と判断して、自分もなるべく責任を負わないように無難なことしかやらなくなります。
部下をやる気にさせるマネジャーは、部下の隣に座って社長と話をします。それが「責任はすべて自分が取る」というメッセージになる。言葉だけでなく、実際の行動で上司としての責任感を示せるかどうか。部下がやる気を出すかどうかは、上司の腹のくくり方にかかっています。