「いいものは売れ、悪いものは消える」の嘘
合成の誤謬は、目下のデフレ進行に関連してこのところよく耳にする言い回しだ。ミクロ経済学(家計・企業レベル)の視点から見れば正しい行動でも、それがマクロ経済学(国家レベル)の水準にまで積もり積もると、しばしばまずい結果を引き起こしてしまうことを指す。
家計では当たり前の「善」である安物買いを、皆が皆行うことでどんどん物価が下がり、社会にとって「悪い」結果であるデフレを招く、という例にしばしば使われる。この文脈なら覚えやすいだろう。
効率的市場仮説は、株取引の世界で一時広まった近代投資理論のベースである。株式市場では、情報は市場全体へ均等に伝達され、市場参加者はそれを正しく判断して株を売買する。それゆえ株価はいつも適正な水準にある、という仮説である。
株以外のマーケットでも、「誰もが等しく商品について知っていて、買い手はそれを正しく判断して購入する」と無意識のうちに考えている人は案外いる。要は、「いいものは黙っていても売れる。悪いものは自然と消える」というわけだ。
言うまでもなく、株式も含めた現実の市場では、情報の伝達は不均衡になされ、買い手の目利き力も完全ではない。各社の商品も一律に優劣は付けられないし、ユーザーとの相性も様々だ。そもそも、同じ商品でもサービスの水準は担当者によって千差万別だ。
業界下位メーカーの営業担当が、この仮説を盲信して「どうせ大手の優良品が入っているに決まってる」「とても太刀打ちできない」と勝手に諦めていては話にならない。スッキリときれいな仮説では見えてこない現実のデコボコにこそ、現場の営業マンの活路があるのである。