創業の原点をつくった貸レコード店でのバイト

エイベックス社長 松浦勝人氏

そんな高田頭取が弘前の支店で銀行員としての新人時代を過ごしていた1985年、金田社長と同じ経済学部の3年生にエイベックス・グループ・ホールディングスの松浦勝人社長がいた。彼はその年のある日、学部の休講掲示板の前で高校時代からの友人・林真司氏(同社の代表取締役の一人)と会う。そして、「今、貸レコード店でバイトをしているんだ」と聞いて覗きに行った横浜市港南台のアルバイト先が、後にエイベックス創業の原点となる「友&愛」という店だった。当時の学生生活を松浦社長はこう振り返る。

「1、2年生のときはほぼ毎日学校に行って単位を取り、割とまじめな学生生活を送っていました。それでほとんどの単位を取ってしまったので、3年生からはその貸レコード店でずっと働いていたんです」

松浦社長がダンスミュージックと出合ったのは大学1年生のとき。あるディスコで「ハイエナジー」の大ヒットナンバー「So Many Men,So Little Time」を聴いた。

「衝撃的でした。自分がこれまで聴いてきたハードロックやヘヴィメタルとは全く違う音楽。以来、『他にこういう曲はないか』と渋谷や池袋、新宿の貸レコード店を回り始めた」

それからは学生時代に何千枚というレコードを集めていく。アーティストやプロデューサーの名前、レーベル名を書き出してリストを作るうちに、欧米のダンスミュージックの業界地図もわかるようになっていった。貸レコード店でのアルバイトでは、その知識を大いに役立てた。

正直に言えば、あの頃は将来に悲観的な気持ちもあった、と彼はいまでは語る。「将来は親父の会社(中古車販売業)を継ぐのかな」――数年後の自分の姿を漠然と思い描き、「嫌だな」と感じていた。だからこそ貸レコード店でのアルバイトの日々は、彼にとって大きな喜びだった。