効能は同じ。医師はなぜ高い新薬を使うのか

4月以降、ジェネリック医薬品の普及率は期待に反し伸び悩んでいる。澤井光郎社長は低迷するシェアをこう分析する。

「確かに厳しいですが、おおよそ想定内の数字といっていいでしょう。その理由は、まだまだ医師のジェネリック積極派が少ないからです。おそらく、2割に満たないと思います。残りのうち6割がノンポリ派。ここが半分でもジェネリック肯定派になってくれると数字は伸びるはずです」

同社がこの5月の連休明けに全国の薬剤師約300人に行ったインターネット調査でも「変更不可」の欄に医師のサインがない処方箋の割合は48.1%と半数を下回る。そのうち、ジェネリック医薬品に変更したのは21.1%。全処方箋における変更率は10%でしかない。

こうした傾向を如実に物語っているのが、7月にジェネリック医薬品が解禁された高血圧治療薬であるカルシウム拮抗剤(血管拡張剤)の動向だ。先発医薬品としては、ファイザーや大日本住友製薬が発売していたが、沢井製薬では「アムロジピン錠(サワイ)」の製品名で発売している。この先発薬は、市場規模が2000億円にも達する医薬品だったこともあり、30種類のジェネリック医薬品が発売された。先発医薬品とジェネリック医薬品の患者自己負担額を比べると、年間負担(3割)で、8760円と5480円、ジェネリック医薬品のほうが、3280円安い。だが、沢井製薬の製品は思いのほか売れていない。

もちろん、競合他社との価格競争もある。新薬メーカーの市場防衛努力もあり、結果として、新薬からの「変更不可」にサインされることもあるだろう。

しかし、患者側の声はこれとは違う。6月中旬に読売新聞社とgooリサーチが、過去2年間に病院で薬を処方された経験のある40歳以上の男女約1000人にアンケート調査した結果が新聞に掲載された。

それによると、ジェネリック医薬品を「全く知らない」と答えた人は4%にとどまり、使ったことのある人は23%だった。今後、使いたいか、使い続けたいかとの設問に対しては、「是非使いたい」が32%、「勧められれば使いたい」が50%と、合わせて82%に達した。少なくとも、患者の間に「安かろう、悪かろう」という感覚はない。

ジェネリック医薬品の普及を妨げているものは何か。それは澤井光郎社長も指摘する「医師の根強い新薬志向」である。長年にわたる付き合い、新薬メーカーのブランドという安心感、医師の主催する学会への資金面のサポートなど、新薬メーカーは医師の信頼を勝ち得ている。もちろん裏を返せば、歴史の浅いジェネリック医薬品への不安や不信感がある。

「後期高齢者医療制度で保険金を年金から天引きされるなど、患者が病院にかかりにくくなっているのも確かです。しかも、お年寄りには慢性疾患も多い。個人で医療費を抑えようとしたら、ジェネリックを選択するのは当然のことです。30%は決して夢ではありません」

澤井光郎社長は、とにかく普及率30%という目標に近づくことが“第1幕”だという。それまでは、澤井弘行会長がそうであったように、会社全体としてジェネリック医薬品の“伝道師”に徹する。その後はジェネリックメーカーそれぞれの努力で市場を活性化させる“第2幕”に突入し、そこでトップシェアを狙うというのが基本戦略だ。

沢井製薬は、企業理念に「なによりも患者さんのために」を掲げている。そのためには、ジェネリック医薬品の信頼性確保に万全を期さなくてはならない。品質管理、情報提供、研究開発、そして安定供給という4つのフェーズから“サワイ品質”を追求している。

その結果として売上高1000億円の早期達成をめざす。08年3月期の連結業績が376億円だから、約3倍の力量が求められる。しかも、ジェネリック医薬品は、2年に1度の薬価改定で、価格はどんどん下がっていく。単純な販売増では間に合わない。