日本では未だに根強い後発薬への“アレルギー”
今年4月1日、イメージキャラクターである俳優・高橋英樹の大きな看板がかかる沢井製薬本社では、社長交代の緊急記者会見が行われた。1988年に社長に就いて以来、同社を率いてきた澤井弘行社長(70歳)が、代表権のある会長に退き、澤井光郎専務(51歳)が、6月24日の株主総会後の取締役会を経て、社長に昇格する人事を発表した。
澤井光郎氏は営業畑が長く、「営業部門を優れた部署に育てた」(澤井弘行社長)実績が評価された。さらに、同社が主力製品としているジェネリック医薬品に関して、厚生労働省により、4月から医師や薬剤師に対し、ジェネリック医薬品を処方・調剤するように処方箋の様式が改定されたこととも無関係ではない。社長交代は、その追い風を生かすための新体制のスタートでもある。
席上、挨拶に立った澤井光郎氏は、今年を“ジェネリック医薬品元年”と位置づけ、経営方針について、こう語った。
「新たに広がる保険薬局の市場、そして経営努力で収益が改善するDPC(診断群分類別包括評価)の本格導入化を見据え、病院市場へ積極的にMR(医薬情報担当者)がアプローチをかけ、これまで以上の売り上げ達成をしていきたい」
ジェネリック医薬品は、後発医薬品とも呼ばれ、新薬(先発医薬品)の特許期間が切れた後に発売される薬のこと。新薬と同一の有効成分・同等の効き目だが、新薬ほど莫大な研究開発費がかからないため、薬の価格は新薬の半分程度になる。
実際、欧米ではジェネリック医薬品が広く使われている。日本の国民皆保険制度と違い、患者が薬代を自己負担するアメリカの場合は、数量ベースのシェアが63%。カナダ、イギリスやドイツも50%を超える。一方、日本は16.9%にとどまり、極端に低い。
澤井光郎社長はこう指摘する。
「1万円の新薬と5000円のジェネリック医薬品。価格差は5000円ですが、医療保険が適用されるので、患者の負担は3割の1500円の差でしかない。国民の目に見えにくいところで医療費が膨らんでいます」
日本では、1年間にかかる総医療費の20%、約6兆円を薬剤費が占める。だからこそ、医療費抑制を掲げる厚労省は躍起になってジェネリック医薬品普及の旗を振っている。目標は数量シェア(普及率)を2012年度までに30%に引き上げること。目標達成で、約5000億円の薬剤費が削減できる。
これまでにもジェネリック医薬品使用促進のための施策はいろいろ講じられてきた。02年4月の診療報酬改定で、ジェネリック医薬品を含む処方、調剤、患者への情報提供に対してインセンティブを導入。02年度は12.2%だった数量ベースのシェアが、03年度には、現在に近い16.4%に上昇した。
06年4月には、処方箋に「後発医薬品への変更可」に医師が署名すれば、調剤を行う保険薬局ではジェネリック医薬品が出せるようにした。だが、ここから思うようにシェアは伸びなかった。
そこで前述のように、4月1日から医師が出す処方箋の様式を改定した。具体的には、処方箋に新薬の名前が書いてあっても、医師が「後発医薬品への変更不可」の欄にサインしなければ、ジェネリック医薬品の処方が可能になった。
さらに、今年はファイザーの高血圧治療薬の「ノルバスク」、大日本住友製薬の「アムロジン」など、先発品の特許が切れる。ジェネリック医薬品の普及に弾みがつくと期待されているのだ。