自社に埋もれるシーズを発掘せよ
繊維産業といえば昔は「衣料」が常識でしたが、私が社長に就任した1987年を境に、セーレンは「脱衣料」に向けて大きく舵を切りました。斜陽の一途をたどる繊維産業から脱却するには、コアテクノロジーである繊維技術を生かして非衣料分野を開拓していくしか道はなかったのです。その結果、現在までに5つの分野(オートモーティブ、インテリア・ハウジング、メディカル、エレクトロニクス、ハイファッション)が次の事業として成長しました。そのなかでも今回は、メディカル部門についてお話したいと思います。
そもそも染色加工を生業としていたセーレンが、なぜメディカル分野に参入することになったのか。最初からメディカル分野での成長を確信していたわけではありません。しかし、「脱衣料」を模索しながら自社が持つシーズを改めて検証してみると、さまざまな可能性があることに気づきました。その一つが、セリシンでした。セリシンは、絹から抽出される希少な天然たんぱく質です。セーレンはこのセリシンを使った化粧品や健康食品、医薬関連資材を幅広く展開しています。
セリシンを開発するきっかけとなったのは、絹の精練工程における技術者の気づきでした。精練とは、染色加工前の生地を特殊な溶液につけ、絹糸に付着した不純物を取り除くことで、きれいに染め上がるようにするための工程です。セーレン(旧福井精練加工)の社名もこれが由来です。