直接話さなければ顧客の本当の動機はわからない

【神田】プレジデントの読者に向けて、マーケティングのセンスとスキルを磨くために日々できることについて、具体的なアドバイスをいただけますか。

【コトラー】古典的なマーケティングのケースを幅広く、かつ熟読することを勧めます。『マーケティング・マネジメント』をはじめとする私の教科書が支持されてきた理由の一つは、成功した企業と失敗した企業について多数の事例を紹介し、その背景にはどのような考えや行動があったのかを提示したからです。大事なのは、今調子がいい企業だけに注目するのではなく、良いときも悪いときも切り抜けて長く続いている企業に特別の注意を向けることです。アリー・デ・グースの『企業生命力』を読むのもいいでしょう。

また、日々の習慣としては、毎日少なくとも一人、必ず顧客の誰かと会話をする、またはその人の行動を観察することが大事です。なぜその人はあなたの企業やその商品を選んだのか、その本当の理由を理解するためには、直接会話するのが重要なのです。

【神田】現在、マーケティングのどのようなテーマにご関心がありますか。

【コトラー】今の私は、発展するためには都市はどうすべきか、国や公共部門はなにをすべきか、ということに関心を持っています。

コトラー教授の最新著『Winning Global Markets』

日本を含め、多くの国は今、ある種の膠着状態に陥っているといえると思います。そのような場合、変革の主たる責任を担うのは国家だと考えられてきました。しかし私は、変革の責任を担っているのは国家ではなく、都市なのではないかと考えるようになりました。それが新著『Winning Global Markets』(弟、Milton kotler氏との共著)を書こうと思い至った理由です。

実際に、国よりも速いペースで、そのなかにある都市が成長しているという現象が頻繁に起きています。そのような都市は独自にグローバル化を進めていて、自分たちの力で海外からの投資を呼び込んでいます。米国の都市を例に挙げるならば、サンフランシスコがそれに該当します。既に日本やインドネシアなど多くの国々と、独自に関係を築きました。

重要なのは、都市がある意味で国のような役割を果たす――かつて歴史に存在した「都市国家」のように――ということなのです。古い時代のイタリアは、それぞれが都市国家として成り立っていたことを思い出してください。たとえばヴェニスは、それ自体が一つの国として機能していました。現在でも、シンガポールは都市国家だといえるでしょう。都市ではあるけれど、まるで国のように動く。この本は、「国の将来は、そのなかにある都市がグローバル化の責任を担うかどうかにかかっている」ということがテーマなのです。