さらに日本の成長戦略は行き場を失うことも懸念される。日本の成長戦略の主軸は、急成長を続ける新興国をターゲットにした外需の取り込みだった。一つが、原子力発電、鉄道などのインフラの輸出。もう一つが海外からの観光客の呼び込みであろう。しかし、いずれも原発事故で「安心・安全神話」が崩壊してしまったのだ。このままでは成長率が低いにもかかわらず、金利が上がるという「悪い金利上昇」が起こる。そして金利上昇がさらに景気を冷やすという「重苦しい危機」(上野氏)が出現してしまうのだ。
さらに、「ホットな危機」が引き起こされる可能性も否定できない。例えば、上野氏が「絶対にやってはならない」という、日本銀行による国債の直接引き受けだ。
政府の圧力に屈して、日銀が国債の直接引き受けに踏み出せば、財政赤字に歯止めがかからなくなり、その通貨の価値が下がるという予想を生む。となれば、国内の投資家がドルやユーロなどの海外の通貨に資金を移すキャピタル・フライト(資本の逃避)が起こる。そうなれば、株、円、国債が売られ、金利はさらに急上昇するかもしれない。
日本の財政が破綻し、ギリシャのようになれば、大幅な円安局面を迎え、これをテコにした成長戦略を描けるかもしれないが、国家が破産する痛みを国民は許容できるのだろうか。その危機を解消するには、財政赤字を縮小しなくてはならないから、増税と社会保障の縮小などを迫られることになる。
リスクはこれだけにとどまらない。永濱氏は、最大のリスクはこうした状況を見越して「有能な人材が海外に出ていってしまうことだ」と指摘する。生産拠点ばかりか、人材の空洞化が進むケースである。富を生み出す源泉そのものが、日本からなくなってしまうのである。
※すべて雑誌掲載当時