平均給与は406万円と過去最大の下げ幅を記録。不況の波が正社員に及んだことが原因の一つだ。業界・役職・学歴別に給与の最新事情を働く人の生の声とともに紹介する。
私たちの給与が、また激減した。国税庁の民間給与実態統計調査によると、民間企業で働く会社員やパート従業員が、2009年の1年間に得た平均給与は約406万円で、これは前年比で5.5%減、金額にして23万7000円も減少したことになる。
07年に、1997年以来前年比をわずか2万円上回ったことがあるが、それ以外は毎年ずっと下落し続けている平均給与。それがついに20年前の89年と同等の水準にまで逆戻りしてしまったのである。今回の減少率、下落額は、ともに統計を取り始めた49年以来最大のものとなった。
昭和天皇が崩御され、消費税が導入され、天安門事件で戦車の前に青年が立ちはだかり、美空ひばりが世を去ったころの時代に、日本人の給与は舞い戻ったのである。
平均給与に占める賞与(ボーナス)の割合も減り続け16%にまで落ち込んでいる。ボーナスは庶民にとってお小遣いのようなもの。冒頭の前川さんのように、高額家電品の購入や旅行費用など、まとまった支出として使途が予定されていることが多いのだが、現状ではそうした予定自体がもはや立てられなくなってしまう。
リーマン・ショックは2年前の秋のことだった。以来、「景気回復の兆し」は何度か語られてきた。だが現実は、まだまだ底を見せない闇の中にある。
その一例として挙げられるのが、低所得者層の増加だ。年収が300万円以下の人は1890万人を超え、全体の42%を占めるようになった。300万円超500万円以下もやはり前年を上回り31.8%に達している。収入減の歯止めは掛かりそうにない。
静岡県のある運送会社で運転手をする中西健輔さん(43歳)の年収は350万円。1年前と比べると、月平均でなんと約10万円もの減額だという。当然、仕事で会社に拘束される時間も減った。そこで週に2日はガソリンスタンドでアルバイトを始めたという。
「大した金額にはならないのですが、やらないわけにはいかない。ヘビースモーカーの私にはタバコの値上げも痛いのですが、だからといってパッと禁煙はできない。それで“電子タバコ”にして出費を抑えています。わが家は今、家計のために家族が総出で少しでも収入を増やそうとしています。妻はフルタイムの仕事にさらに励み、高校生の息子にはバイトで稼いだお金のうち1万円を食費カンパという名目で家に入れてもらっています。老親には、ちょっとみっともないことですが小遣いという形で折々現金をもらっています。本当は親には逆に小遣いをあげなきゃいけないのですが、とにかく今はスクランブルということで……」
まさに非常事態に緊急迎撃態勢を取っている中西一家なのである。(登場人物はすべて仮名)
※すべて雑誌掲載当時