拙速「受動喫煙防止条例」の不可解
北海道美唄(びばい)市――。石狩平野のほぼ中央、札幌から急行で約30分の距離に位置しているまちだ。「美唄」の由来は、アイヌ語の「ピパオイ」(カラス貝の多い所)だという。沼地、河川の多い土地で、カラス貝が多く獲れたからだそうだ。かつて道内有数の炭鉱都市として栄えたが、1973年に最後の炭鉱に火が消え、今や人口は2万3892人(2015年2月末現在)、過疎化の一途を辿る典型的な地方自治体だ。
そんな小さなまちが、にわかに注目を集めている。その理由は「受動喫煙防止条例」だ。市では13年に10カ年計画「びばいヘルシーライフ21(第2期)」を策定。その中で「通学路における喫煙を防止するための条件整備」「敷地内・施設内禁煙を実施する公共施設の増加」を明記した。続いて市は、14年12月1日に「受動喫煙防止対策ガイドライン」をまとめた。同時に、条例化も視野に入れていることを明らかにした。神奈川県、兵庫県が条例を制定しているが、市町村では初の条例化となる。
問題はその後の「動き」だ。ガイドラインからわずか3カ月後の今年2月、「3月2日から始まる3月市議会定例会に条例案が上程される」との情報が流れてきたからだ。通常、どの自治体でも条例案策定については学識経験者や専門家などで制定委員会などを設置し、多くの声を聞きながら1年ほど時間をかけて検討していくもの。ところが、わずかな期間、パブリックコメントを集めただけですぐさま条例化しようというのだから注目が集まるのも当然だ。
15人で構成される市議会の一人、A市議は「あまりにも拙速。条例制定にはプロセスが大切です。もし仮に緊急提案されたとしても、廃案にするだけです」と、にべもない。A市議は、条例の趣旨は理解するものの、手続き論としては横暴だと一刀両断するのだ。別のB市議も「市民には寝耳に水の話。焦って進める条例ではない」と、同じく素っ気ない。A市議によれば、15人中10人は拙速だとの理由で反対に回るだろうと読む。
では、なぜ市はこのように急ぐのか。市政関係者はこう明かす。
「高橋幹夫市長は今年6月に改選を迎えます。4年前、初当選した市長選では坂東知文・前副市長との一騎打ちで、僅か5票差で初当選しました。今年の市長選で、再び坂東氏出馬のウワサがあります。そこで、高橋氏は何としても“実績”を手にしたいため、功を焦ったのではないかと、もっぱらです」