さらに全店には1日1日の売上高、仕入れ高、人件費、利益率のデータが日報や週報の形で見られるシステムが敷かれ、店長以下、スタッフは誰でも店舗別の業績を見ることができる。業績がよければモチベーションが上がるし、悪ければその原因と対策に頭を絞ることになる。

<strong>青山フラワーマーケット ブランドクリエーター 江原久司</strong>●2000年入社の33歳。飯田橋店店長などを経て現職。実家も生花店を営む。「客が花屋の前に列をつくる光景」に衝撃を受けて入社を決意。「花業界全体を盛り上げたい」と意気込む。
青山フラワーマーケット ブランドクリエーター 江原久司●2000年入社の33歳。飯田橋店店長などを経て現職。実家も生花店を営む。「客が花屋の前に列をつくる光景」に衝撃を受けて入社を決意。「花業界全体を盛り上げたい」と意気込む。

「現場への徹底した権限委譲と、各店の業績がすぐに確認できるしくみがセットになっています。これはゲームと同じ構造ですね。インプット、つまり何を仕入れるか、誰を雇うか、どう接客するかが自分で選べ、結果が日報、週報という形ですぐに確認できる。そのためアウトプットを出すためのインプットの改善策が現場にどんどんフィードバックされる。結果として店舗の質が向上し、業績も上がるのです」(一橋大学大学院 大薗恵美教授)

とはいえ、急激な成長には、それなりの問題も潜む。

青山フラワーマーケットの社員、江原久司氏の肩書は「ブランドクリエーター」。商品の企画開発に携わるほか、年4回全国の店舗をくまなく回りアドバイスを行っている。青山フラワーマーケットのブランド維持に欠かせない人物だ。

その江原氏が今課題としているのは、同社の事業コンセプトを全店に正しく浸透させること。会社が小さいうちは難なく共有できていた企業理念が、急成長とともに置き去りにされ、各店と本部の意識にズレが生じれば、ブランド力はあっという間に低下する。そうなっては企業の存亡に関わる問題に発展しかねない。

10年前に入社し、現場の店長を経験してから今のポストに就いた江原氏は、そこで何を調整すべきかに心を砕いている。

例えば、現場は人気がある花を高めに値付けしたがる。しかし「生活に気軽に取り入れられる花」を謳う以上、本部としては価格を抑えたい。店長に委譲された権限が大きいだけに、このような意識の違いが生まれることは少なくない。そんなとき、江原氏は次のような考え方をベースに、意見調整を行うのだという。

「世界的に見れば、日本の花はまだまだ高価。スイスはGDP比で見た花の消費額が世界一なのですが、これは花が安いため、生活に花を絶やさないという文化が根付いたからです。花の単価を上げれば目先の利益は上がりますが、長期的な需要には結びつきません。短期的な目標だけでなく長期的な展望も、事業には必要なのです。『花の文化を創る』ことまで見越した『青山フラワーマーケットらしさ』を押さえたうえで、各店長の個性を上乗せした店舗運営をしてもらうのが理想です」。

(小原孝博=撮影)