立ちはだかる不吉なジンクス

ただ、これまでの自動車業界の歴史を振り返ると、どの自動車メーカーにも絶好調な時期があった。例えば、長年再建に苦しんできた三菱自動車もそうだ。90年代初め、「RVブーム」に乗って300万円以上する「パジェロ」が飛ぶように売れた。しかも、多くの購入者がオプション用品をつけ、なかにはその金額だけで100万円を超える人もいたほどだ。当時の中村裕一社長は「2位の日産自動車の背中が見えてきた」と喜んでいた。

ところが95年に社長をダークホースで腹心の塚原董久氏に譲ると、それまでいい流れだったのが急に逆回転し始めてしまった。相次ぐ不祥事によって、会社が窮地に追い込まれ、いつ倒産してもおかしくない状況に陥った。

このように自動車業界は栄枯盛衰の激しい業界だ。しかも、富士重工の場合、あるジンクスとも闘わなければいけない。それは「立派な新本社ビルを建てると、会社が傾いていく」というものだ。これまで新本社ビルを建てた多くの企業がジンクス通りになっている。あのトヨタ自動車でさえ、新本社ビルを建設した数年後に、リーマンショックの影響で巨額の赤字を計上。社員の中には「もしかしたら」と思った人もいたそうだ。富士重工は昨年8月に東京・恵比寿に立派な新本社ビルを建設した。

いまのところ富士重工には死角のようなものは見当たらないが、「好事魔多し」という言葉もある。現在、中期経営計画「際立とう2020」を進めており、あらゆる面で際立とうというのが目標である。販売台数目標については計画を上回るスピードで推移しているが、販売店の対応やアフターサービス体制などまだまだ不十分で、"際立つ"ものとはほど遠い。

それは吉永社長も十分承知している。そのため、「蛻変」という言葉を使って、社員に奮起を促したわけである。「好調なときほど危険だ」とは昔からよくいわれている教訓だ。

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