――結局、僕はスペシャリストとゼネラリストのどちらを目指すのか、という問題ですよね。

実は“ゼネラリスト”というのは、日本を除けば、世界のどこの国にも存在しない概念です。

プロ野球に例えてみればわかります。楽天の星野監督がマー君を呼んで「おまえはピッチャーとしては日本で最高だが、来年はちょっとショートにチャレンジしてみるか?」などと、言ったことがあると思いますか?

そんなことはありえないでしょう。厳しい競争に晒されている世界では、「ゼネラリストで人材を育成しよう」というような悠長なことを言っていられるはずがないのです。大学は学業の成績を評価される場所です。でも成績優秀だった人が、社会人になって営業ができるとは限りません。勉強よりスポーツが得意な人のほうが、営業成績はよかったりします。企業は、自分の好きな分野、得意な分野で頑張って成果をあげた人が評価される場所です。そのほうが企業にとっても本人にとってもいいと思います。

――じゃあ、出口さんはスペシャリストになることを勧めるということですね。

絶対そうです。自分の好きなことで、さらに能力を高められますから。

そもそも、一生この企業で働くと思い込んでいるから、「この企業の仕事は全部知っておいたほうがいい」という発想になるわけです。でも、日本もこれからは労働の流動化が進み、世界的な基準での“普通の社会”になりつつあります。“普通の社会”では、「経理に強い」とか、「財務に強い」とか、専門分野があったほうがはるかに転職しやすいですよね。

――企業が将来の幹部候補を「いろんなことを知っておけ」という意味で異動させることがありますね。

たしかに、日本の大企業は今でもそういう人事をやっているところもあります。「この社員は、分析力は優れているけれど、対人関係は弱い。だからちょっと営業の第一線へ出して苦労させて、人間の幅を広げてやろう」というような……。私に言わせればいじめに近い。世界の常識ではありません。

自分の専門分野をしっかり持っていて、なおかつ企業全体が見える社員を出世させる、これが世界の常識です。

――「異動するための異動」は断ったほうがいいですね。

そう。上司から「ちょっと他の仕事をやってみろ」と言われたら、「イヤです」と言えばいいじゃないですか。「私は今働いているこの分野で頑張りたいので」ときちんと説明をして。

人間は好きなこと、得意なことをやっているときが一番幸せです。そして、社員にそうさせるほうが企業にとってもトクなのです。

Answer:「今働いている仕事を続けて頑張りたい」と答えるべきです

出口治明(でぐち・はるあき)
ライフネット生命保険会長兼CEO

1948年、三重県生まれ。京都大学卒。日本生命ロンドン現法社長、国際業務部長などを経て2013年より現職。
(構成=八村晃代 撮影=市来朋久)
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