コミュニケーションは、多様な要素の複合体(発信側だけでも「伝え手」「伝える中身」「伝え方」が関係している)である。経営者の話を分析していくと、いかなるときにも有効な「普遍原理」のようなものが確かに存在している。ここでは、それぞれの経営者が見出した「伝え方」を考察してみよう。

世界のどこでも「義」の精神を貫く

JFEホールディングス 相談役 數土文夫氏●1941年、富山県生まれ。北海道大学工学部卒業後、川崎製鉄入社。2001年川崎製鉄社長就任。05年JFEホールディングス社長、10年より相談役。

日本企業が世界で活躍する現代でも、海外の人から見て日本人はわかりにくいところがあるらしい。

それは、自分の意見をはっきり言わないからだと思う。そのために不信や誤解を招くことも多い。

自らの経験として、国際的な交渉では自分の意見や立場を堂々と表明し、相手との違いを明らかにすることから始まる。互いの妥協点を探るにしても、最初の立ち位置があいまいなままでは、交渉はうまくいくわけがない。

また、相手が理不尽なことをしたときには、臆せず毅然とした態度をとることも必要だ。

私の川鉄副社長時代、フランスのユジノール(現アルセロール・ミタル)社と、提携話を進めていて裏切られたことがある。同社は川鉄としか提携しないと言っていたのだが、実は裏で他社とも交渉していたことが発覚したのだ。

私は即座に提携話を打ち切り、弁明のために来日した同社の副社長との面談を断った。それが「義」に反する卑劣な行為だと思ったからだ。信用が重視される国際社会、毅然としていなければ渡っていけない。

正義を貫くこと、裏表なく嘘をつかないこと、一言の重み。武士道でいう「誠」「名誉」「恥」の精神は、現代においてこそ再認識されなければならない。

(10年8月30日号当時・相談役 構成=高橋盛男)