コンピュータだから起きる事件

もっとも誤って入力した時、コンピュータは「注文内容が異常」との警告メッセージを表示したが、担当者はそれを見過ごした(意味のないエラーメッセ―ジが画面に表示されることはめずらしくない)。また東証はその後、発行済み株式の30%を超える注文を受けつけないとか、5%から30%の場合は「誤発注ではないか」と問い合わせるなどのシステム改善を行っている。

問題は、コンピュータ(システム)だからこそこのような事件が起こるということである。うっかりミスは誰にでも起こるが、その結果が途方もない被害となってふりかかる。振り込め詐欺も同じだが、貨幣が札束を離れてデジタルデータに置き換わっているためである。

誰にも起こりがちなケアレスミスのために、会社にあっという間に膨大な損害を与えてしまった社員はどう責任をとればいいのだろうか。彼が定年まで在籍しても、給与総額は400億円の百分の一を上回るかどうか。ここでは会社にかけた損害を賠償するという、ある意味でまっとうな考えはまったく意味をなさない。個人の手には負えないということである。

逆に、濡れ手に粟の状態で大金を得た証券会社の場合はどうだろうか。一瞬の間隙をぬってすばやい判断をした担当者がいたかもしれないが、巨額の利益を生みだしたのもまたコンピュータ・システムだと言っていい。

証券会社ばかりでなく、個人で20億円を儲けた人もいる。損害を被った側にしろ、巨利を得た側にしろ、一瞬にして大金を動かしてしまうシステムが人間の心理にどのような影響を与えるかを考えるべきである(コツコツと物を作り上げるような仕事のあり方が馬鹿らしくなるというのもその一つだろう)。