末端で働く人にも常に敬意を払う

第40代アメリカ合衆国大統領、ロナルド・レーガン氏と(ロイター/AFLO)

【孫】将軍が最も尊敬するリーダーとはどなたでしょうか。

【パウエル】よくされる質問なのですが、答えたことはありません。たとえば、私は4人の大統領に仕えましたが、順番をつけることなどできません。ただ、なぜか心が通じるところがあったという意味では、ロナルド・レーガン大統領でしょうか。実は、日本にまつわるエピソードが一つあるんです。

88年、当時私はレーガン大統領の安全保障問題担当補佐官だったのですが、ある日ホワイトハウスに緊急招集されたんです。財務長官や通商代表が来ていて、「すぐ大統領に会わなくては!」とみんなが言う。どうしたんだと聞くと、日本人について問題が起きたと。当時日本は好況で、アメリカのあらゆる資産を次々と買収していました。「議会は怒っているし、世論の反発も高まっている。すぐ大統領の指示を仰がなくては」というのが、政府高官たちの意見でした。

私は彼らを引き連れ、大統領執務室に入りました。「何か手を打たねばなりません」と、高官たちがレーガン大統領をせき立てます。大統領は彼らの話にじっくり耳を傾け、いくつか質問をし、それからちょっと考えて、口を開きました。

「いいことだと思うがね。彼らがアメリカを有望な投資対象とみてくれているのは」。高官たちは大統領執務室を出て、互いにつぶやきました。「なぜそこに気づかなかったんだろう」と。

これがリーダーの仕事の一つなのです。レーガン大統領は、大統領の仕事とは何か、アメリカとはどんな国家であるかを深く理解していました。

そして、たとえ議会や国民世論が怒りに燃えていても、アメリカの資産に誰かが投資してくれるということは、最終的にはアメリカ国民の利益になるという、大局的な判断を下しました。

問題ばかりに心をとらわれず、そこにどんなチャンスがあるかを考えるのが、リーダーの役目だと思います。何が新しいのか、何が会社や社会に利益をもたらすのか、リスクはどのくらいか。そして、日々リスクとチャンスを天秤に掛け、リスクは最小に、チャンスを最大にするよう努力するのです。