祖国は恋しいが、日本は素晴らしい

【孫】とはいえ日本では、「(移民を受け入れてまで)富や経済成長を追う必要はない、『小さくて美しい国』でいいじゃないか」という感覚を持つ人々が、まだとても多いと感じます。

【パウエル】その2つは、両立できない選択肢ではないと思います。比較的小さな、美しい国土に深く根ざして生きていることは、確かに日本人の特色です。だからといって、日本の文化や社会が、他国から来た人々を受け入れられないことはないし、経済成長や富の創出をあきらめる必要もないと思います。

現代における最大の政治的影響要因とは、世界中どこの国でも、経済成長であり富の創出です。それは一部の富裕層だけでなく、社会全体をも潤すものです。そして、その前提となるのは、新たな労働人口が常に供給され続けることなのです。

【孫】将軍のご両親はジャマイカのご出身で、アメリカへの移民1世でいらっしゃいましたね。ご両親がアメリカに不満を述べられることはありましたか?

【パウエル】両親は生涯を通じて、アメリカを愛していました。母国が彼らに与えられなかったものを、アメリカは与えてくれたからです。仕事、収入、住む場所、車。子供たちに教育を受けさせることもできました。どれも、祖国にとどまっていたら望むべくもなかったものです。

両親はいつも、自分の故郷はジャマイカだと言っていましたが、一方でアメリカ人であることを誇りに思っていました。2つの思いの間には、葛藤も矛盾もありませんでした。

【孫】私もそうです。私の祖父母は韓国から日本への移民1世で、祖国は韓国だといつも言いました。「そんなに韓国が好きなら、なぜ日本にいるの」と聞くと、彼らは「祖国は恋しい。でも日本は素晴らしい」と答えました。日本で暮らせて幸せだし、このまま住み続けたい。そのためには正しく振る舞い、日本の人々に親切にしないと、と。

子供時代、日本国籍を持たないことを、周りに内緒にしてきました。差別されるのが嫌だったからです。でも成長するにつれ、何らかの形で「自分も同じ人間なんだ。自分も日本に貢献できる」ということを証明したいと思うようになりました。

私の母語は日本語だし、日本食も日本人も大好きです。私が本当に日本人として受け入れられるかどうかは、わかりません。韓国名を今も使っていますしね。でもいつの日か、国籍や人種、性別の差を超えて、みんなが同じ人間であることを認め合えることを願っています。