経済の低迷期には何に頼るべきか

【1】の冒頭(http://president.jp/articles/-/14177)で言及した“Apologizing To Japan”にも書いたように、西洋が日本よりもひどい状態になったのは緊縮政策のせいである。日本の不良債権処理が遅れたように南欧の不良債権処理が遅れると、それがユーロ危機第二弾の発端になる可能性がある。第一弾が生じたときに私は声を大にして「緊縮政策は間違っている」と叫んだが、誰も聞く耳を持たなかった。ギリシャは増税と歳出削減を実行し、財政赤字はGDPの15%にも相当する規模まで膨れ上がった。その教訓をドイツが学んでいないのは理解しがたい。緊縮政策がいかに間違っていたかは誰の目にも明らかであるはずなのに、なぜ教訓を得ようとしないのだろうか。

今回来日したときに話した人たちは、「多くのビジネス・リーダーたちは日銀の政策は間違っている」と言っていた。自著『そして日本経済が世界の希望になる』にも書いたように、経済の低迷期には理論と歴史の教訓に頼るべきである。つまり経済学者が言うことに耳を傾けるべきだ。国家は会社とは異なるということを理解しなければならない。FRBもイングランド銀行もベン・バーナンキ、ジャネット・イエレン(現FRB議長)、マーヴィン・キングといった元大学教授の指揮下にあった。ECB(欧州中央銀行)総裁のマリオ・ドラギもほとんどのキャリアを学問の世界と公職で過ごしてきた人だ。ドラギはご存じのようにユーロを崩壊から救った英雄である。

欧州経済について私の懸念が増しているときに、昨年11月6日ドラギ総裁は理事会後の記者会見で「必要な場合にとる追加策の準備を指示した」と述べ、さらなる金融緩和を示唆した。これを知って私はいささかほっとした。金融市場にはECBが国債などの資産を買い、大量のお金を市場に流す量的緩和に踏み切るとの見方が広がった。そのためユーロ安が進み各国の株価が上昇した。

普通会社が経営に行き詰まると賃金を下げ、経費を削減して経営危機を乗り越えようとするが、それを国家に適用すると経済はますます悪化する。需要が減り、悪循環が生じるからだ。経営困難に陥ったときの会社経営者たちの発想と国家の経済が低迷しているときの発想は真逆になる。だから、景気が低迷しているときはビジネス・リーダーたちの言うことに耳を傾けないほうがいい。

こうして世界経済全体を俯瞰すると、正常に機能しているのはアメリカとイギリスの経済だけである。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国)では中国以外にも景気減速が生じている。