人事評価は同世代でトップレベルだった

この広告代理店の中途採用では、グローバル営業要員を募集していた。面接でのやり取りなどから、学歴よりも前職での仕事の実績などを確認しているように思えたという。

「社会人になり、5年が過ぎていますから、当然のことでしょうね。学歴のことは話題にもなりませんでした。東大卒であろうと、グローバル営業要員にはふさわしくないと判断されるキャリアならば、書類選考にも漏れたのかもしれません」

当時は、金融不況が叫ばれていた頃だ。多くの企業が中途採用などで受け入れる枠を減らしていた。それでも、内定だった。

「東大卒だから? いや、そうではないと思いますね。商社の頃は、人事評価も高く、私なりに誠実に仕事をしていました。それらを評価してくださったのではないかなと思います」

この会社に入る前に、実は業界1位の電通の人事部に電話をしていた。電通にもかねてから興味を持っていたからだ。だが、中途採用の試験は行っていないという返事だった。そこで、内定を得た広告代理店に入社した。

半年ほどすると、電通がグローバル営業要員を募集していることを新聞の求人広告などで知った。このとき、三菱商事から移ってわずか半年。新天地での仕事に不満はない。人間関係にも恵まれていた。だが、意中の会社の募集だ。

廣重氏は、当時の心境を語る。

「エントリーしたところで、たぶん無理だろうなと思っていました。転職して、半年ほどしか経っていないから……。だけど、行ってみたい会社でした。思いきって、履歴書などを送ってみたところ、書類選考、面接と進み、内定でした。うれしかったですね」

筆者が採用試験の舞台裏を取材する限りでは、人事部などは、転職を短い期間で繰り返す人には警戒する傾向がある。ところが、あっさりと内定。やはり、学歴がモノを言っているようにみえた。

廣重氏が、高校生のような表情をみせつつ、答える。

「東大卒だから? ガハハ……(笑)。そうではないと思いますね。前職(広告代理店)でのキャリアは短いけど、商社の頃は、人事評価は同世代でトップレベルだったのです。ボーナス支給時の査定評価をみると、それがよくわかりました。そのことは、(電通の)面接試験の場で伝えたと思います」

筆者は、このようなことも尋ねた。中途採用では、エントリーする人の大半が前職などでの実績をアピールする。それでも、電通にはなかなか入れないのではないか、やはり、東大卒が決め手になっているのではないだろうか。

廣重氏が答える。

「採用する側ではないから、正確なところはわかりません。社会人になってからのキャリアを中心に判断していただいた結果ではないのでしょうか」