原田隆史

1960年、大阪府生まれ。大阪市内の公立中学校に20年間勤務。生活指導主事として問題のあった学校を立て直し、大阪市立松虫中学陸上部を7年間で13回の日本一に導く。2003年、公立中学校を退任。教師を育てる「教師塾」を運営する一方、企業の教育・コンサルティングに乗り出す。最近は、教育的手法を企業の現場改善に取り入れた「原田メソッド」を海外でも普及。「やる気のない職場を変えるのは、荒れた学校を立て直すのと同じ」と話す。モットーは「仕事と思うな、人生と思え」。


 

中学校教師、教師指導者、プロスポーツコーチ、企業教育と幾つかの仕事をやってきて、思うことがあります。パフォーマンスを上げるには、心技体と生活が大事ということです。これは、勉強でもスポーツでもビジネスでも、みんな同じでした。

心技体はよく聞くでしょうが、それだけでは足りません。心技体をどんなに磨いても、生活自体をよくしないと、仕事でも人生でも、結果は出せないものです。そもそも生活がきちんとしてなければ、心技体が備わることはありません。生活面を正しく管理することよって、心の癒し、疲労回復、アイデンティティの維持を図ることができます。それが、イマジネーション、やる気や集中力、ゆとりにつながっていくわけです。

生活のなかでも、食事が非常に大切なことは言うまでもないでしょう。最新の脳科学の研究とも関連し、現代人が特に意識して摂取しなければならない栄養素は、炭水化物とタンパク質とミネラル、この3つであることがわかってきています。記憶を司る前頭前野が活性化するときに必要なのが炭水化物です。その記憶を、海馬でフィルターにかけて仕分けるにはタンパク質、海馬から記憶を取り出すにはミネラルが用いられます。

僕は、子供にも、プロスポーツ選手にも、ビジネスマンにも、この3つの栄養をバランスよく十分に摂るように指導しています。

実は、食事には、こうした「頭や体の栄養」だけでなく、「心の栄養」を摂るという面もあると、僕は考えています。原田メソッドでは、人をやる気、元気にする関わりのことを「心の栄養(=ストローク)」と呼びます。教師は生徒に、コーチは選手に、上司は部下に、「ストロークを打ち続けろ」と説いてきました。何気ない声かけでもいいのです。「おい、元気か」「今日は頑張ったな」「その服、いいな」。つまり「私は、あなたのことを思いやっている」と、真心、親心を持って関わることで、その人は元気になれるのです。

僕は教師時代、毎朝校門に立ち、登校するすべての生徒にストロークを打ち続けて、問題を抱えた学校を立て直した経験があります。企業でも、「問題ある職場」を「理想の職場」に生まれ変わらせる最大の武器は「心の栄養=ストローク」なのです。

今回紹介させてもらった「たん熊本家」さんと「松葉」さんは、単に料理が美味しいというだけではありません。お客さんに対するホスピタリティが抜群なのです。部屋に飾られた一輪の花や、お客さんへのおもてなしに、さりげないけれども相手に対する深い思いやりが感じられます。ですから、いつも僕自身が「体の栄養」だけでなく「心の栄養」も十分にいただいているわけです。