55対45という結果は、ナイストライ
危機感を募らせた英国側は、「独立するなら通貨のポンドは使わせない」とか、「スコットランドのEU加盟には同意しない(EUの新規加盟は全加盟国の同意が原則)」と嫌がらせのカードを切ってきた。
ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド(RBS)がロンドンへの本店移転をチラつかせ、エリザベス女王が「自分たちの将来を慎重に考えるように望んでいる」と声明を出すなど独立反対派がオールキャストで盛り返した結果、最後の最後で賛成派がひるんだというか、「いろいろ面倒だし、まあいいか」と矛を収めた印象を受ける。
サモンド首相は「独立によって景気は良くなるし雇用も増える」といっていたが、具体案に乏しかったのも事実だ。それも当然で、独立の具体的な内容や手順については16年3月をリミットに英国と交渉することになっていた。
一方のキャメロン首相の戦法はほとんど泣き落としで「約束手形」まで切った。つまり、スコットランドにより広範な自治権を認める法案を来年早々にも公表すると明言したのだ。
スコットランドは独立しても立派にやっていけると実は私は考えていた。530万人の人口はEUの中ではそれほど小さくはない。むしろ、特色ある国づくりをするには最適サイズだ。首都エジンバラは欧州最大の金融センターの一つだし、最大の都市グラスゴーは工業都市で知られる。アメリカからの直行便も多く、いつでも工場建設に乗り出すスコットランド系メーカー経営者も大勢いる。英国政界にスコットランド出身者が多いのは、彼らが優秀だからだ。祖国スコットランドを支援しようというスコティッシュ(スコットランド系)もアメリカだけでなくニュージーランドなど世界中に散らばっている。通貨はポンドをそのまま使っていればいい。米ドルを自国通貨に流用している中南米の国はいくらでもある。
しかし、スコットランドの人々は大英帝国に留まることを選択した。55対45という結果は、私に言わせればナイストライである。自治権拡大の確約を取り付けることができたし、しばらくは英国政府から丁重に扱ってもらえるだろう。住民投票の結果を受けてキャメロン首相は勝利宣言を行ったが、本当の勝者は実を取る選択をしたスコットランドの人々かもしれない。
それにしても300年も“隷属”した地域の分離独立を民主的な住民投票に委ねた英国といい、住民投票の結果を「民主的な評決」と粛々と受け止めるサモンド党首といい、文明国の民度の高さを感じずにはいられない。