20代は何事も「狭い」
酒の選び方にも違いが出ると安田さんは言う。
「平社員は好きなものを飲み、部長はワインの蘊蓄を語る。役員は健康のことを考えて焼酎に行きつく。それに、上場企業の役員といえども使える接待費は限られる。焼酎は高くてもせいぜい6000円ぐらいでしょう。ワインは高いし、うるさい人においしくないワインを出したときの落胆は焼酎の100倍ぐらいだと思います。詳しい人ほどお互いに気づかってしまって、ワインは難しい。だから焼酎がいいんです」
また接待の翌日、出世する人からは100%朝7時にお礼メールがくる。「80%の部長はお礼メールをしない。役員クラスは帰りの車の中からくれる人もいます。お礼は感動が冷めやらぬうちに、が基本です」
その内容もただ「おいしかったです。ありがとう」では子供の作文だ。「今の時季の関サバはとてもおいしい」など、印象深かったことを必ず記す。
「季節を味わい、感謝を記す。こうしたやり取りひとつとっても、日本の接待文化って深いんですよ。役員の接待では、接待される側が全員お土産を持ってくる。それも「××で評判の」と蘊蓄が言えるものです。そのへんのデパートで買ってきたものじゃない。20代はこういう文化を伝えてくれるおじさんと飲んだほうがいい。似たような友人とばかりいると、心地いいかもしれないが、結局自分が損です」
20代は何事も「狭い」のだ。アンケートで、「自分の周りにいる一流の人物」をフリーアンサーで書いてもらったところ、20代は「自分に優しくしてくれた直属上司」を称える傾向が見られた。30代は、それより上の上司や取引先の人、40代になると部下の優れた部分に目を向けるようになる。若い頃は自分中心に物事を考えていて、年齢が上になると、やっと「人のいいところ」を積極的に探すようになるのだ。
話題の選び方も一流と超下流では違う。「悪口、陰口、愚痴」「下ネタ」「自分自慢」「説教」などは男女問わずNGだが(表5)、それではどんな話をするのが「できる男」なのだろう。
「下ネタはある種一番簡単なトークですが、ブルーカラーの話題です。下ネタに頼ることなく、面白さを2時間演出する技術を持っていないといけない」
しかし真面目一辺倒でもダメだ。
「例えば同席した部下がトイレに行った隙に、『部下の前じゃ言えませんが、この前キレイな女性がいまして』なんていう話をすると、ぐっと距離が縮まるんです」
ちょっとした自己開示は重要なのだ。
「実は私も、いま家内とあんまりうまくいってなくてね」
相手からもそんな話を引き出せたら、その接待は成功したも同然だ。
日本人のアフターファイブの会話は上司の悪口と下ネタばかりだ。安田さんは「そんな非生産的なことに時間を費やすより哲学を語れ」と言う。哲学や芸術を語らないと、人間はレベルアップしていかない。
海外では、「あなたにとって最もエキサイティングなことは何?」と、ふと突き詰めて考えさせるような質問をされる。
「役員までいく人は物事をとことん突き詰めて考える。こうした話題ができると、突き詰めて考えるいいきっかけになります」