本気になれば1秒で変えられる
【白河】本当にシンプルですばらしいですね。日本のダイバーシティも経営もぜひ松本会長のような方にリーダーシップを取って欲しいですね。ぜひ女性へのエールをいただきたいです。
【松本】もう当たり前になっているから、特にはないんですが……、やりたいことをやりなさいとよく言っています。そして会社は時間なんか求めていない。成果を求めているんだと。
長きをもって尊しとなすという日本の文化はね、実は江戸時代からできたんですよ。僕はそれを全く否定している。長いっていうのは別に何もいいことないよと。
成果を求めず長い時間勤勉であるというのは、江戸時代にできた哲学。どうしてかと言えば、江戸時代は成長しちゃいけない時代だったんです。成長を求めると、下剋上の世界になってしまう。江戸時代は安定の時代ですから、問題を起こしてはいけなかったんです。そのための制度がうまくできていた。今の日本に、徳川家康の作った制度が通用するわけないじゃないですか?
でも意外と、明治、大正、昭和から今の平成にかけて、これがなくなっていないんです。
【白河】文化を変えるって本当に難しいことですね。
【松本】ところがね、面白いのは文化を変えるのは難しいという反面、自分で変えようと思ったら1秒でかわるんです。
考え方を変えたらしまいですよ。あ、変えよう、と思ったら1秒でいい。でもみんな、なかなか変えようとしない。
でも常に変えていくことで、変わることが当たり前になる。こうやって、変えることを恐れない状態にすることが大事です。もう25年ぐらい前から、松本さんは朝改暮改だとよく言われます。朝令暮改じゃない。朝決めたけど、朝変えるわというのが朝改暮改。
【白河】なるほど。常に柔軟でいるっていうことですね。
【松本】こっちの方が正しいと思ったら、変えたらいいんですよ。それが間違ってたらまた変えたらいい。ただ、一番の軸そのものは変えてないと思います。
今までやっていなかったことをやろうとすると、いろんな問題も起こります。しかし、それは本質的な問題とは思わない。
女性を登用する段階で、いろんな意味で経費がかかるんですよ。しかし経費ではなくそれは投資なんです。
経営者としてはまず経費をInvestmentとExpenseに分ける。そしてInvestmentはやるけれどExpenseは使わない。Investmentの中で一番大事なのは人件費で次が教育費。これをExpenseと考えたら会社の経営は上手くいかないんです。
女性は会社のエンジンですよ、女性を活用してない会社は、2つエンジンがあるのに、1個を使ってないのと一緒です。ダイバーシティは、グロスの成長のためのエンジンですよ。使わないとダメになるのは当たり前。もちろんダイバーシティには外国人も障がい者もシニアもありますが、日本の半分は女性なんだから、一番大きなエンジンなんです。
松本 晃
1947年、京都市生まれ。京都大学農学部修士課程修了。72年4月伊藤忠商事入社。医療機器販売の子会社を経て、93年ジョンソン・エンド・ジョンソン日本法人へ。同社の社長、最高顧問を歴任。2008年カルビー社外取締役に就任後、09年6月より現職。
白河桃子
少子化ジャーナリスト、作家、相模女子大客員教授、経産省「女性が輝く社会の在り方研究会」委員
東京生まれ、慶応義塾大学文学部社会学専攻卒。婚活、妊活、女子など女性たちのキーワードについて発信する。山田昌弘中央大学教授とともに「婚活」を提唱。婚活ブームを起こす。女性のライフプラン、ライフスタイル、キャリア、男女共同参画、女性活用、不妊治療、ワークライフバランス、ダイバーシティなどがテーマ。「妊活バイブル」共著者、齊藤英和氏(国立成育医療研究センター少子化危機突破タスクフォース第二期座長)とともに、東大、慶応、早稲田などに「仕事、結婚、出産、学生のためのライフプランニング講座」をボランティア出張授業。講演、テレビ出演多数。学生向け無料オンライン講座「産むX働くの授業」も。著書に『女子と就活 20代からの「就・妊・婚」講座』『妊活バイブル 晩婚・少子化時代に生きる女のライフプランニング』『婚活症候群』、最新刊『「産む」と「働く」の教科書』など。
撮影=的野弘路