パーソナルスペースに入るための秘訣

8割近くの営業担当者がヒアリングに苦手意識あり
図を拡大
8割近くの営業担当者がヒアリングに苦手意識あり

人間には「他人に入ってきてほしくない距離」がある。これをパーソナルスペースという。質問をするという行為は相手の精神的なパーソナルスペースに入るのと同じであるため、強引に聞き出そうとすると相手を不愉快な思いにさせてしまう。では、顧客に不愉快な思いをさせないで、精神的なパーソナルスペースに入るにはどうすればよいだろうか。

その方法は2つある。

一つは、1人の人間として相手に受け入れられることだ。自分の幼い子供が突然抱きついてきても、違和感をおぼえる人はいないだろう。ほとんどの場合、家族がパーソナルスペースに入ってきても、不愉快な気持ちにはならない。すでに受け入れている相手に対しては、パーソナルスペースが消失している場合があるのだ。

もう一つは自分を受け入れるメリットを感じさせ、相手の許可を得てからパーソナルスペースに入り込む方法だ。

たとえば「背中にゴミがついていますよ。取ってあげましょうか」と言われれば、「ありがとう」と感謝して相手を受け入れるだろう。相手がゴミを取るために近寄っているのだとわかっていれば、「気持ち悪い」とは感じないはずだ。

これをヒアリングの場面にあてはめて考えると、質問をする前に営業担当者が「答える意義」を相手に提示すればよい、ということになる。情報を与えるメリットがあると理解してもらえれば、パーソナルスペースに入り込んでも不愉快な感情を呼び起こすことはなくなるだろう。

そのためにはあらかじめ相手の関心を探り、質問する前に「会話をする意思」を確認する必要がある。このヒアリング手法を私たちは「カットイン」と呼んでいる。

カットインの手法は「ワンメリット・ワンクエスチョン」のセットで構成されている。「ワンメリット」とは相手にメリットを感じさせるように、訪問や質問の目的を1つの短いセンテンスにまとめること。「ワンクエスチョン」とはワンメリットに関係した、相手の共感を呼ぶ質問を指す。

たとえば「コストを30%削減するご提案にうかがいました」とメリットを提示したうえで、「最近は原油の高騰で負担が重くなっていますよね?」と質問をする。そして「そうなんだ。大変なんだよ」と相手の共感を引き出せれば会話を少しずつ広げていき、核心を突く質問に入っていけるのだ。

したがって、カットインでは顧客の痛みや苦しい部分にあえて触れて、相手に共感が生まれるような質問が有効である。逆に「YES」か「NO」を答えさせる質問は避けるべきだ。会話が途切れ、次の話題につながらなくなってしまうからである。

カットインがうまくいかず、相手から反応が返ってこないときもあるだろう。その理由としては、提示したメリットや質問が相手に刺さらなかったことが考えられる。

1回目のカットイン・アプローチがうまくいかなかったら、「ワンメリット・ワンクエスチョン」の内容を変え、もう一度チャレンジすべきだ。たとえばコスト削減に顧客が興味を示さなければ、スピード向上や省力化など別の切り口でアプローチするのである。

ただし、3~4回カットインを繰り返しても相手の反応がよくなかったら、潔くあきらめて別の機会に再チャレンジしよう。カットインできるまでは本格的なヒアリングには入らないほうがよいのだ。

ヒアリング項目をつくり、営業担当者に機械的に質問をさせている会社もあるが、単に質問項目を上から順に聞いていくと、警察の尋問のようになってしまう。たとえ質問項目が適切であっても答える価値を相手が感じていなければ、決して答えてはくれないものだ。

(構成=宮内 健 市来朋久=撮影)