ちょっとした「日常」を切り取る

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。NEET株式会社代表取締役会長、鯖江市役所JK課プロデューサー。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。様々な企業の人材・組織コンサルティングを行う一方で、全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施中。
若新ワールド
http://wakashin.com/

イベントに登場したり、これまでになかった何か「特別なこと」に取り組んだりと、非日常的な活動のほうがみんな楽しいし、話題も盛り上がりやすいのは事実です。しかし、新しい価値が日常の生活に根付かなければ一瞬で消費され、一過性で終わってしまう危険がある。そんなものは、みんなすぐに飽きてしまいます。

考えてみれば、かつては「週末」という非日常の代表的な存在だった遊園地などのテーマパークが、近頃は地域社会からほとんど消えつつあります。さらに、情報化が進むことで、どんな新しい情報も毎日手元で手軽に確認できるような時代になり、非日常的な消費サービスは飽和状態です。東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオなど「究極の非日常」を体験できるようなところしか生き残れていません。なんでもどこでも簡単に手に入るような時代になり、かつてのように、非日常的な刺激や体験に豊かさを求めたり、非日常的なサービスを消費したりすることに価値を感じなくなっているのだと思います。

むしろ近年、僕たちにとっての消費の楽しさは、連続した「日常」にあります。LINEが多くのユーザーに利用されているのは、スタンプなどを使って、日常でのちょっとした気持ちを多彩に送り合えることができるツールだからでしょう。家庭の主婦が自分の自慢のレシピを投稿できるクックパッドも、日常を舞台に急成長したサービスだと言えます。日常の中にある、ちょっとした楽しさ、面白さ、心地よさ、便利さ――。JK課がまちづくりの取り組みで目指すのも、日常の生活に根ざしたものあるべきです。

しかし彼女たちは、もちろん非日常的な体験も楽しんでいますが、一方で、独特の視点で日常を切り取ってくれていました。市営バスのくる時間や、図書館の空席情報など、ちょっとした「あったらいいな」を、次々口にしてくれます。アプリもそこから生まれました。

問題は、僕たち大人が、それが一個できたことに「すごい!」といって喜んで、ついつい満足してしまいがちなところです。日常を切り取るサービスも、「JKがつくった!」ということに終始してしまうと、非日常の話題として消費されてしまう。大切なのは、それを市民生活の日常に根付かせていくことです。そのためには、どんどんやってみて、改良し、10個、20個とケースを増やしていかなければなりません(ここは、大人が頭を下げてお願いしてでも……)。本当に、学ぶことが多いです。