愕然……。箸もスプーンも使えなくなった
その日はそんなことを続けて終わり、翌日の日曜日。看護師さんの言った通り、水を飲んだことで薬は少しずつ抜けているようで朝、呼びかけると目を覚ましました。
「朝ご飯、食べる?」
と聞くと、うなづいたので、おかゆを作り、少量でしたが食べることもできました。この日も、ほとんど眠っていましたが、朝昼晩と3食、おかゆを食べましたし、少し安心しました。が、父の状態が急変したことは事実なので、翌日の月曜日はホームヘルパーが来る日でしたが、訪問看護師にも特別に来てもらうことにしました。
月曜日になると薬はさらに抜け、多少呂律はまわらないものの会話もできるようになりました。訪れた看護師さんの問いかけにも応じることができましたし、これで完全に薬がからだから排出されれば、少なくとも3日前の状態には戻ると思いました。
ところが、そうではなかったのです。
最初の異変は食事でした。その日の昼食にはやはりおかゆを作って持って行ったのですが、箸をうまく持つことができないのです。スプーンなら食べられるだろうと思って渡しましたが、すくったおかゆを口まで持っていくこともできません。
結局、自力では食事を摂ることができず、私が食べ物を口に入れなければ食べられない状態になってしまったのです。介護認定には、食事に介助が必要かどうかも判定の目安になっていますが、この数日で要介護度は確実に重くなったわけです。
その日の夕方には、もうひとつの異変が起こりました。
夕食の支度をしようと2階の仕事場から階下に降りていくと、その足音に気づいた父が大声で私を呼びました。何事かと思って行ってみると、私を呼ぶために使っていた携帯電話の操作が分からなくなったというのです。
父が使っていた携帯電話は老人向けのシンプルなタイプでしたし、あらかじめ私の携帯番号をセットし送信ボタンを押すだけで呼び出せるようにしてありました。しかも昼夜を問わず頻繁に私を呼び出していたのですから、操作は慣れているはず。
しかし、父はどのボタンを押したらいいのか、分からないと訴えました。睡眠薬が効き過ぎて丸二日眠り込んだ。それを境に、ついに認知症の症状が出るようになってしまったのです。