妙薬だが劇薬コルヒチン
カルヴァドスはシードル(りんご酒)を蒸留したブランデーとカテゴライズされている。法的格付け(A・C)をもつ老舗のビュネル社、モンゴメリー社などいずれも1820年の創立で、その頃から蒸留器が普及したとみることもできよう。
そして、まさに1820年、フランスの薬剤師ペルティエとカヴェントゥは、イヌサフランの種子からコルヒチンの抽出に成功したのである。
ところで、イヌサフランとは、
「晩秋にサフランのような白い花を咲かす。(中略)種子は赤く、根の皮は暗黄褐色で、むくと中は白くて柔らかく、液汁をたっぷり含んでいて甘い」(前掲『ディオスコリデスの薬物誌』)
が、先述したように、食べると、
「窒息して死ぬ」(同前)
怖い毒草なのである。そのため、中世ヨーロッパではイヌサフランの使用は禁じられていた。
「一七六三年にウィーンの侍医ステルクが、その頃まで信じられていたイヌサフランの球茎からのエキス(コルヒチン)の有害さを否定して、猩紅熱や関節痛によく効くと主張した」(前掲『痛風』)
ステルクからペルティエとカヴェントゥまで、57年もの月日が費やされている。
コルヒチンが抽出されたからといって、その毒性が否定されたわけではない。現在、日本で製造しているタカタの「使用上の注意」には、1日の投与量は1.8mgまでにとどめるとともに、大量使用による急性中毒症状に、
「激烈な下痢、ショック、痙攣、呼吸抑制による死亡」
などを挙げている。すでに下痢を発症した時点で過剰投与なのである。だからこそ、
「服用すべきか、ようすをみるか」
コルヒチン錠さながら青ざめた表情で逡巡することになる……。
(佐久間奏=イラストレーション)