そもそもジンは薬として開発された
ジンの起源は1660年、オランダのライデン大学医学教授フランシスクス・シルヴィウスが開発した「ジュニエーブル」とされる。これは、アルコールにジュニパー・ベリー(セイヨウネズの実)を漬け、再蒸留したもので、解熱や利尿剤すなわちクスリとして薬局で販売されていたそうだ。
シルヴィウスは、ハーヴィー(英国の医師)が発表した血液循環説(1628年)の支持者であったが、そのハーヴィーは痛風に悩まされていたことで知られる。シルヴィウスの着眼したジュニパー・ベリーは、当時、痛風に効くとの通説があり、現在でもそれを信じている向きはある。ひょっとすると、シルヴィウスは痛風薬の調合に挑戦したのではあるまいか、とは素人の勝手な妄想であるが、根拠はなきにしもあらず。
なにしろ、17世紀の段階では、痛風の特効薬コルヒチンはまだ開発されていない。血液が循環することさえ、認知されていなかったのである。ハーヴィー、シルヴィウスが痛風治療薬の開発に関心を抱いたとしても不自然ではあるまい。
ところで、ジュニパー・ベリーについては、紀元1世紀にディオスコリデスが編纂した「薬物誌」に記載されている。
「丸く、芳しく、甘いが、噛むと少々苦く、ユニペル・ベリエ(Juniper berrie)と呼ばれる。(中略)利尿作用があるので、痙攣、ヘルニア、子宮の狭窄症などにもよい」(鷲谷いづみ訳『ディオスコリデスの薬物誌』エンタプライズ)
特効薬コルヒチンの原料となるイヌサフランについても、「薬物誌」に記載されていて、痛風薬として紹介されている、などと巷間、流布されているようだが、そこは赤か黄のカードを突きつけたい。
詳しくは次回に譲るとして、先ごろ「バーネット」は国内生産を終了してしまった。オールドファンとしては寂しいかぎりである。