痛風発作が起きる場所は決まっていない
回想しつつ、痛む足をひきずり酒屋へ。そういえば医者が私の歩様を診て、
「跛行あり Lame」
と書いたのを盗み見て、競馬でいう寛跛行を連想したのはいつであったか。馬に痛風などあるわけもないが、 パドックで眼を凝らしたところで、跛行を見抜くのは並大抵ではない。ひきかえ、こちとらの跛行は一目瞭然 。英語の俗語では、ダサい、という使い方もされているようだ。
各種分野でキャリアがあるように、痛風においても、ジュニア、ミドル、シニアと段階があると私はみている 。
病歴も私のように20年ともなれば立派なシニア、ベテランであろう。
跛行も、傍で見ているほど簡単ではない。体重の移動にコツが要る。杖を使うにしても、どこでどう体重を移動するか、体得するまでに何回発作を起こしたことか。
しかも、私の場合、痛風発作の起きる場所が、左右の足首と、左右のアキレス腱、左右の膝と一定しない。連続して右足首に出たかと思うと、左足首に出る。初期の段階では、左右の足首しか出なかったので、アキレス 腱に出たときなど、
「これは痛風じゃないだろう」
と、勝手に判断したがため、半年間、苦しめられた。
いずれにしても、左右どちらかの脚が不自由になるため、その都度、杖のつき方がちがってくるし、跛行の仕方も異なるのである。
痛風になって、初めて手摺りの有難さ、段差の憎らしさを知った。
痛風ジュニアの頃にはわからなかったが、発作には予兆がある。釣りにたとえると、ピクピクとアタリがあって、グーッと引き込む。そのグーッとくるまでに、コルヒチンを服用しなければならない。
ああ、だがそこで 逡巡、躊躇が生じる。コルヒチンを飲んだ日には、それからしばらくは禁酒を覚悟しなくてはならないのである。
(佐久間奏=イラストレーション)