デモを仕掛けたのは「ベトナム経済打撃を目論む中国人スパイ」説も

ホーチミン市で働く30代の日本人女性は、「ベトナム人の同僚が死者発生の知らせに『あ~、そうなんだ~』って笑っていた」とショックを受けたという。

もちろん中国に対して激しい憤りをみせながらも、暴動については「恥ずかしい」と語るベトナム人もいる。また「暴動するエネルギーがあるくらいなら、生産性向上に向けた方がいい」と冷静な見方をするベトナム人もおり、デモの過激化には否定的な意見が多数を占めるが、市民の間で中国への怒りは冷めていない。

18日にホーチミン市中心部で行われた反中デモの様子

5月18日にホーチミン市で発生したデモでは参加者は前週と変わって思い詰めた表情で反中を叫び、公安の制止を振り切ろうとしたためもみ合いが発生。一時現場は騒然となった。

労働者らの行動に火を付けたのは、何だったのか。

地元紙では外部で組織的に扇動したグループがあったと報道されている。大量の国旗などを用意し、デモ参加者に1人当たり5万ドン(2.4米ドル、約244円)を支給していたほか、中国・台湾系企業の位置を記した地図まで準備していたという。

ある40代の男性は、「誰が糸を引いていたか分かるか? ベトナム経済への打撃や国際世論による批判を狙った中国のスパイだよ」と真顔で語っていた。だが格差の拡大に不満を持つ労働者らのストレスが、賃金水準が低い中国・台湾系企業に向かったとみる日系企業の関係者も多い。真相はやぶの中だ。

デモ隊が先鋭化した5月13~14日にかけての政府の対応は後手に回ったが、中国のみならずシンガポールや台湾政府からも強い圧力を受けてデモ取り締まりを強化。輸出の3分の2を占めるとされる外資系企業の活動が鈍れば、経済への影響は計り知れない。グエン・タン・ズン首相は15日以降、SMSで全国民に繰り返し冷静な行動を呼び掛けた。

暴動発生から10日が過ぎ、街には平穏が戻り、被害を受けた工業団地も放火などを受けた一部の工場を除いて平常化した。だがタクシーではたびたび「中国人か?」と聞かれる。運転手の表情は穏やかだが、目は笑っていない。CATVでは、中国ドラマが韓流に切り替わったという話を聞いた。市民の緊張は解けていない。

大手日系企業が最近開いた記者会見では、反中デモの影響に関する質問が飛んだ。「中国人労働者が大量に帰国すれば影響が出ないとも言えない」と回答したところ、「工場に中国人がいるのか?」「中国からの原材料の調達率は?」と記者が突っ込み、広報担当は火消しに躍起になった。

政府は抑制に努めているが、市民の間で残り火は残っている。在留邦人や日系企業もやけどしないためには、慎重な対応が必要になっている。

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