電気ドリル責めのような激痛
初体験というものは、だれしも、なにがしかの忘れられない痛みを伴うとか。私の場合、なんとも強烈であった。
ある朝、起きて階段を下りようと、右足を1歩、着地させた瞬間、足首にビリッと衝撃が発した。
「え、くじいた?」
年末のあわただしい時期、仕事にも追われていて、たかが足を捻ったくらいで医者にかかってなどいられない。
痛みはその時点では我慢できるものであった。捻挫なんて、小学生の頃、サッカーで遊んでいてやったくらいのもので、しかとは記憶していないが、たぶん、このような痛みだった、と自問自答なんぞしたものである。
その夜、間歇的であった痛みは、いきなり、頂点に達した。しかも、間断なし。
幸いにも頑健な肉体を授かった私は、病気による痛みとはさほど縁がなかった。が、およそ痛みというものには、休みがあるだろう。ところが、この痛みときたら、まったく、1秒たりとも、休みがない。
電気的といってもいい。電動ドリルに先の鋭く尖った錐を装着し、それを足首にグサッ、と突き刺され、ギュンギュン回される。そんな痛みだ。
「タイム、タイム。5秒でも、いや、1秒でいいから、止めてくれ」
と、ギブアップをしても、許してもらえない。
市販の鎮痛剤を服用してみたが、まったく効果なし。いかになんでも、西部劇じゃないんだから、とためらいつつ、ウィスキーをストレートであおってみたが、酔えない。
一睡もできないまま、夜が明けた。年末のため、病院は休日診療のところしか空いていない。厚顔な私も、救急車を呼ぶ勇気はなかった。心のどこかで、どうせ、すぐ治まるだろう、と軽くみているところもあった。
その判断は誤りだった。現実は厳しく、文字通り、私は痛い目に遭う。
(佐久間奏=イラストレーション)