「真の競争力」を生む社長の長期的視点

副社長の「自立化」も促されている。13年4月1日付の組織改正では、北米・欧州・日本担当の第1トヨタ、新興国担当の第2トヨタなどの地域担当制が新たに導入され、副社長がそれぞれのトップに就いた。これまで豊田社長が判断していたような案件も副社長に権限委譲した。事業・収益責任を明確にし、意思決定の迅速化を図る狙いもある。言い換えれば、危機から脱するために社長自ら戦線を指揮していたスタイルを改めるのである。11月20日に報道陣に公開された東京モーターショーのプレゼンテーションでは、豊田社長ではなく開発陣を指揮する加藤光久副社長が舞台に立ったのも権限移譲が着実に進んでいることを示すシーンだった。

また豊田社長は、日本の現場がイノベーションを誘発する基盤であると考えており、国内生産300万台にもこだわる方針だ。豊田社長は「トヨタは日本で生まれたグローバル企業。トヨタが日本の企業であり続けるためには国内生産の基盤は大切だ」とも言う。

その一方で、海外生産も拡大させていかなければ、ライバルに市場を奪われる。11月21日にはトヨタは中国でハイブリッド車の現地開発に取り組むことを表明、上海から高速で約1時間の江蘇省常熟に「トヨタ自動車研究開発センター」を開設した。同時にハイブリッド車向け電池の製造会社も設立した。虎の子のハイブリッド車開発を初めて海外に出すことになったのは、環境破壊の進む中国ではエコカーのハイブリッド車が切り札となり、フォルクスワーゲンやGMに取った後れを巻き返すチャンスになると判断したからであろう。

国内生産を守りつつ、海外事業も拡大させることはさまざまな矛盾も生じさせる。前述したTNGAも商品力の強化とコスト削減という二律背反の取り組みの同時展開であり、ここにもさまざまな矛盾が存在するだろう。その矛盾を解決していくために社員が一丸となって知恵を出し合い仕事に取り組まなければならない。日本企業が国内に地盤を残しながらもグローバル競争に勝つためには何が必要かをとことん突き詰めて考える時代が来ている。とことん突き詰めていく力こそが「真の競争力」なのかもしれない。