これまで述べてきたとおり、トヨタの業績は回復し、新しい車造りにも挑戦している。豊田章男社長の「もっといい車を造ろうよ」という掛け声が、着実に組織に浸透している。では、復活したトヨタに「死角」はないのだろうか。
豊田社長は、業績が好転し始めた13年5月の決算発表の際にこう語った。「持続的に成長していくためのスタートラインにやっとつけた。足下の環境にとらわれることなく、『真の競争力』、すなわち『持続的成長を可能にするための競争力』をトヨタに関わる全員で、真剣に考え、追求していきたい」。
社長発言の真意は、好業績の要因は単に円安ではないし、為替の動向に一喜一憂して、真にやるべきことを怠っていては国際競争力が劣後してしまうことにある、と筆者は考える。豊田社長自身も「円高や円安といった為替の短期的な動向に左右されないようにトヨタを『リボーン』させていく」と語っている。為替がどう変動しようと、「真に競争力」が強い会社は、利益を生み出していくものなのである。
「真の競争力」とは、単純に数値化できるものだけではない。人材育成にこつこつと励み、愚直に品質や生産性を追い求める企業風土なども含まれる。強いときのトヨタは利益目標を掲げなかった。豊田社長があえて数値目標を掲げずに経営理念で会社を牽引しようとしているのも、その辺を意識してのことと見られる。
経営理念の下、トヨタの社員・役員・仕入れ先の一人ひとりが愚直に考え抜き、チームワークを大切にしながらも個として自立した組織をつくっていくことも「真の競争力」向上につながるだろう。たとえば、14年1月から導入の「指導職修行派遣プログラム」は新しい人材育成への取り組みだ。これは指導職に昇格した全社員に、トヨタの海外事業体での実務研修や海外の大学での学位取得、国内の関係企業での実務研修、他部門への異動などの「他流試合」を義務付けることで、社員の能力の底上げを図る仕組みである。海外の勤務では、日本人が多い職場ではなく、異文化の外国人社員だらけの、負担のかかる厳しい職場でマネジャー職を任せて、揉まれて鍛えられることも視野に入れている。「車を造る前に人をつくりなさい」をモットーとしてきたトヨタらしい取り組みと言える。