体験旅行で生んだバージョンアップ
振り返れば、1980年代半ば、40代の前半は、様々なことを吸収する「充電」の期間だった。部下たちにとっても、そうだっただろう。キーワードは、「たゆみなきバージョンアップ」だ。
仙台のテニス教室の開業がひと区切りした86年ごろ、約50人になっていた社員の全員を、人気を集めていた静岡県のリゾート施設へ連れていく。頭の中に「次の一手」が湧き始め、そのための体験旅行だったが、部下たちには話さず、ただ「楽しもう」とだけ言って出かけた。
施設で遊んでいたら、雨が降ってきた。屋内テニスコートがあるが、事前予約していた人しか使えない。多くの客がぶつぶつ言いながら、宿泊している部屋でトランプなどを始める。でも、子ども連れの家族は、子どもたちが部屋の中を走り回り、やがて退屈し、困り果てていた。自分たちも、やることがない。
何で、荒天対策をしていないのか? 自分なら、どうするか?
長野県・蓼科などの施設にも、部下たちを連れていく。そうした体験の蓄積が、リゾート施設を初めて手がけるとき、生きた。90年に福島県棚倉町に開業した施設は、前号で触れたように、屋内テニスコートのほかに屋内プール、フィットネスクラブやトレーニングジム、屋内の乗馬施設など、他施設にはない「雨の日でも楽しめる」という形に、バージョンアップさせた。
部下たちにも、何かを学び、自分たちが運営する施設をバージョンアップさせる案を、考えてほしい。そう思っていたので、毎年、全員に新規事業の企画書を出させる。
そんな中から新しい案を採用しても、うまくいかないことがある。でも、提案者が「もっと、やらせてほしい」と言えば、やらせた。無論、改善案は求める。「スポーツクラブは新しい産業で、難しい。でも、新しいからこそ、改善の余地もある」と説く。部下たちは「斎藤さんは、常に前向き。忙しくなるほど元気になり、その気にさせられる人だ」と受け止めて、後を追ってくれた。
同じころ、都内の一流ホテルの役員からも、多くのことを教わった。上司に紹介され、最初は、やりたいと思っていたフィットネスクラブを見学させてもらう。役員は高校の先輩で、自分たちのホテル研究会にも入れてくれた。