過去の成功体験に引きずられる
スマホもゲームもソニーの屋台骨となる事業として伸びていく見通しは相当に暗い。では元会長の大賀典雄氏が事業化した音楽やストリンガーが混ぜっ返した映画はどうか。音楽は個別ダウンロード全盛で、握手券でも付けなければCDが売れない時代だし、映画コンテンツもパワー不足。「結局、ソニーは今、何で食っているの?」と問うてみれば、「金融」しかない。
ソニーの金融事業は盛田昭夫氏が元気な頃に生保から始めて、巨大な新参者として損保や銀行まで手を広げ、今やソニーの安定した“稼ぎ頭”なのだ。
ソニーのような大きな会社が躓く理由の一つは、過去の成功体験に引きずられるからだ。
事業をつくり出したことのない経営者は過去の延長線上で、足し算と引き算で考えることしかできない。だから、「今までやってきた中でパソコンとテレビは儲からないからやめましょう」「夢よもう一度でコンソールはやりましょう」「好調なXperiaをここで思い切り伸ばしましょう」となる。
今の時代、世界で繁栄しているのは新しいものをつくり出した人であり、企業だ。サムスンにしてもいつまでも家電と半導体にしがみついていたら、今日の繁栄はなかった。全く未知のGoogleのアンドロイドOSに飛びついて最大の供給者になったことが、サムスンの大きな転換点だったのだ。
過去の成功体験にしがみついていたら、日本の産業界は1970年代、80年代に隆盛を極めた会社の屍が並ぶ「スミソニアン博物館」になりかねない。
会社の中でデジタルの本質が何なのか、徹底的に議論する。その脅威を組織で理解し、共有する。そして勝者の側に立っている企業が何をやっているのか、徹底的に研究する。トップ自らがそれを毎日のように行わなければ、組織は危機感やビジョンを共有できないし、新しい発想も生まれてこない。