解析から生まれる、地域活性の様々な打ち手

一連の調査の中で、特に重視されたのが「島以外への消費行動の波及」だ。芸術祭を観に島を訪れた人が、島以外の香川県内をどれだけ周遊しているか。つまり、既存の香川県の観光資源にも影響を与えているかを分析する事が大切だった。

実際に分析すると、島来訪者の29.5%が高松市街地のエリアを訪れている事が分かった。しかしながら、滞在時間を詳細にみると、60分以上、同エリアに滞在した島来訪者は、15.3%に半減する結果が見て取れた。

島来訪者の県内周遊状況(スポット別、n=740)

「スマートフォンを活用した位置情報分析であれば、どのエリアに居たか、といった事が機械的に判別できるため、アンケート等での回答と較べてより正確な動きを捉える事ができます。滞在時間と消費金額は正比例関係にある事から、こうしたエリアでは滞在時間を伸ばすための体験メニューを用意する、といった事が対策として考えられるのではないでしょうか。」

さらに観光名所の金刀比羅宮があるエリアは、島来訪者が訪れた割合こそ6.6%だったが、そのほとんどは60分以上の滞在だった。しかし来訪者の内訳を見ると30代、40代の女性がメインとなっており、20代女性が多くの比率を占める島来訪者の傾向からすると若干のズレが生じている事が分かった。例えば、こうしたスポットは隠れた観光資源として若い女性に対してPRを行なう事や、周遊率の高いエリアで関連情報をアピールする、といった施策も考えられる。

「実はこのような結果は、関係者にとっては『意外』というよりも、『なんとなく』想定されていた事なんです。観光業界にとって、こうしたビッグデータ分析が意義深いと考えられている点のひとつは、人によって異なる『なんとなく』を定量化できる点です。データをもとにした事実を通じて、地域の関係者が共通の定量的な目標を持つ事で、次の打ち手が見えてきます。」(同)

2020年の東京オリンピックを控え、海外旅行者の動きを知りたいといった地域からの要望も増えているという。彼らが日本国内をどう周遊し、どこに滞在しているのか。それを細かく解析することで、海外旅行者にとってより満足度の高い日本での体験を提供できる可能性は高い。地域に訪れる人を増やすだけではなく、訪れた人の満足度をさらに高めるような施策を施す。そのために、位置情報や他の複数のデータと組み合わせたビッグデータ分析は、今後ますます重要な手段となっていくだろう。