地域活性につながる、「動き」のデータ化
近年、さまざまな業界で取り上げられることの多い「ビッグデータ」。観光業界でもまた、ビッグデータの有用性が注目されている。
なかでも価値が高いと考えられているのが、スマートフォンの位置情報などから分かる膨大な「旅行者の動き」に関するデータだ。提供に同意したユーザーの位置情報は普段から履歴として蓄積されており、それらを抽出・解析することで、特定の地域に足を運んだ人たちの行動パターン(周遊)や旅行の経路、滞在時間などが細やかにデータで可視化できる。旅行者の動きを数値化し、それをもとに観光の打ち手を考えることを可能としたのだ。
リクルートライフスタイルの観光・地域活性の研究機関であるじゃらんリサーチセンターでは、位置情報の履歴から得られるビッグデータの解析を3年前から行ってきた。同センターの主席研究員・加藤史子氏は、「旅行者の動き」が注目される背景をこう話す。
「以前から、旅行者がどこから来てどのような動きをしているのか知りたいというニーズはありました。昔に比べ、近年は旅行会社のパックツアーを利用せず個人で手配して旅行する方が増えているため、旅行者の足取りを追いにくくなっているんですね。アンケートなどで経路を尋ねることもできますが、何気なく途中で立ち寄った場所などは、日時や滞在時間、そこがどの行政区であったかなどを細かく覚えていないケースも多いもの。その中で、ビッグデータを活用する事で旅行者の動きが詳細に分かるかもしれない、という事から地域側のニーズは、より顕在化してきたのだと思います」
遠方からの旅行者の動きを調べるとなれば、都道府県をまたぐケースがほとんど。そのような行政区分の範囲を超えた広域の調査は、地域側にとって扱いづらかった。またビッグデータ自体は昔からあるものの、近年スマートフォンの普及やコンピュータの処理能力の向上から、より手軽に早く位置情報の履歴を使った克明な「動き」の解析が可能になった事も注目される背景に挙げられる。
「地域が観光振興に取り組む最大の目的は観光による地域の活性化。精神的なにぎわいも大事ですが、如何にして地域での消費活動を促すか、という事です。その軸として大切なのは、『来訪者を増やす』『一カ所の滞在時間を増やす』『滞在地域のバリエーションを増やす』という3つです。来訪者を増やす事に関しては複数の外部要因が関わってきますが、来たお客様の満足度を如何にして高めるか、という事を考える上では、位置情報のビッグデータ解析は有効な手立てだと考えています」(加藤氏)